• ホーム
  • 病院経営 虎の巻
  • 虎の巻その41 難易度が高い病院のデジタルマーケティング|集患につなげるための考え方を「デジタル親和性×診療貢献度×症例数」で整理する

虎の巻その41 難易度が高い病院のデジタルマーケティング|集患につなげるための考え方を「デジタル親和性×診療貢献度×症例数」で整理する

20251226

はじめに

こんにちは。虎兄(とらにぃ)です。病院経営コラム「病院経営~虎の巻~」。

今回は、デジタルマーケティングを集患につなげるための大事な考え方について解説します。

病院のデジタルマーケティングはなぜ難しいのか

病院でもデジタルマーケティングの重要性が理解されるようになってきました。しかし、病院のデジタルマーケティングは、一般企業とは前提条件が大きく異なります。
患者の検索行動は疾患や症状によって大きく異なり、画一的なアプローチでは効果が期待できません。また、診療報酬制度による価格の制約や、地域医療機関としての役割も考慮する必要があります。

こうした制約の多い環境下においては、すべての診療科に同じようにデジタル施策を展開しても、十分な成果につながりにくいのが実情です。病院がデジタルマーケティングを機能させるには、どの診療領域に、どこまで投資するのかを戦略的に見極める必要があります。

ウェブサイトを公開しただけでは、集患にはつながりにくい

多くの病院が「ウェブサイトをリニューアルしたのに問い合わせが増えない」と悩んでいます。しかし、ウェブサイトを作ったからといって、患者が自然に集まるわけではありません。検索結果の上位に表示されるように工夫する必要がありますし、ウェブサイトを訪問した患者が知りたい情報をすぐに見つけられるような設計も欠かせません。ウェブサイトという「場所」を作るだけでなく、そこへの「道筋」と「中の案内」まで整える必要があるのです。

ある病院のウェブサイトのリニューアルを担当したとき、公開直後のアクセスは以前とほぼ変わりませんでした。しかし、患者が検索するワードを整理し、そのワードに対応したページを用意したところ、閲覧数が半年で約1.3倍まで伸び、「ウェブサイトを見て来院した」という外来患者が増えました。
このケースでは、単にデザインを刷新して終わるのではなく、患者が検索するテーマと受診の判断に必要な情報を意識してコンテンツと導線を再設計したことが成果につながりました。

デジタル施策は適切に設計すれば成果を生みます。ただし、その成果はすべての診療科で同じように得られるわけではありません。病院の予算は限られており、デジタル施策との相性も診療領域や疾患によっても大きく異なるからです。

病院のデジタルマーケティングは3つの視点で考える

では、どの領域に注力し、デジタルマーケティングを展開すべきでしょうか。ここで手がかりになるのが、「デジタル親和性」「収益貢献度」「症例数」の3つの視点です。

①デジタル親和性:患者が検索や比較をしやすい領域か

「デジタル親和性」とは、「患者がインターネットで医療情報を調べやすい領域かどうか」という考え方です。患者による情報検索ニーズがあり、病院間に専門性や症例数に差があるなどの理由で、患者が症状を自覚後に情報を検索して病院を比較したうえで受診する、という段階が存在することを意味します。

腰痛や白内障、甲状腺疾患のように自身で症状を自覚しやすく、手術や治療に明確な選択肢がある疾患や、美容外科などの審美的な要素が高いものなどはデジタルとの親和性が高い傾向があります。一方で、感染症や救急のような緊急性の高い領域は、患者がゆっくり検索する余地が少ないため、デジタル施策との相性が良いとは限りません。

【デジタル親和性が高い診療領域】
●患者が症状を自覚しやすい
●患者が病院を選ぶ要素がある(専門性、実績、治療方針などに差がある)
●診断から治療まで、時間的な猶予がある
●手術など、患者の意思決定のハードルが高い治療である
これらの要素が多く当てはまるほど、デジタルとの親和性が高くなります。

②収益貢献度:マーケティング投資を回収できる診療領域か

収益貢献度とは、一般企業でいうLTVLife Time Value:顧客生涯価値)に相当し、収益性の視点における指標です。
収益貢献度が高い診療領域の特徴として、以下が挙げられます。
高額な手術や侵襲的処置としては、整形外科の人工関節置換術や心臓カテーテル治療、脳神経外科の手術など、1件あたりの診療報酬が高い治療があります。診療密度の高い外来診療では、検査や処置を適切に組み合わせることで診療単価を高められる領域があり、内視鏡検査や心エコー検査などが該当します。入院への誘導では、外来から入院につなげることで入院基本料や各種加算を算定できます。長期通院が必要な慢性疾患では、糖尿病や透析など継続的な通院により累積収益が大きくなります。
収益貢献度が高いほど、広告などのマーケティング施策により生じたコストに耐えられます。一方で、軽微な症状で1回きりの診療となる治療では収益貢献度は低くなります。

【収益貢献度が高い診療領域】
●高額な診療や侵襲的処置
●診療密度の高い外来診療
●入院が必要な疾患や処置
●長期通院が必要な慢性疾患

③症例数:十分な患者が見込めるか

症例数が多ければ、対象疾患の患者数が一定以上見込め、治療需要が比較的大きいと言えます。一般の事業会社では「マーケット規模」にあたります。
症例数が多いほどマーケティング投資のスケールが効き、デジタル施策の効果が大きくなります。逆に、希少疾患など症例数が少ない領域では、どれだけデジタル親和性や収益貢献度が高くても、投資の回収が難しくなります。
地域の人口や疾患の有病率、他院との競合状況などを考慮し、実際にリーチ可能な患者数を見極めることが重要です。

【症例数が多い診療領域】
●地域の人口に対して有病率が高い疾患
●加齢に伴い患者数が増加する疾患(高齢化の影響を受けやすい)
●生活習慣病など慢性的に患者が発生し続ける疾患
●競合医療機関が少なく、自院でシェアを獲得できる余地がある領域

④デジタルマーケティングが機能しやすい領域とは

ここまで述べた「デジタル親和性」「収益貢献度」「症例数」の3つの条件が比較的重なりやすい領域では、デジタルマーケティングが集患に寄与しやすくなります。

【デジタルマーケティングが機能しやすい診療領域】
●整形外科・運動器領域
脊椎疾患、人工関節置換術、スポーツ整形
●循環器領域
不整脈(心房細動)、下肢静脈瘤
●慢性疾患系
糖尿病や生活習慣病、睡眠時無呼吸症候群(SAS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD

これらの領域は、患者が自覚症状を持ちやすく、治療の選択肢があり、かつ一定の治療需要が見込めるため、デジタルマーケティング施策の投資対効果が高くなります。

デジタルマーケティング施策の具体例

病院のデジタルマーケティング施策には様々な方法があり、それぞれ異なる役割があります。
SEO
(検索エンジン最適化)は中長期での検索流入を増やす基盤づくりです。一方、リスティング広告は短期的に露出を増やす手段として有効で、特に限定された専門領域では高い効果が得られます。
最近は、医師が出演するYouTubeなどの動画が活用されるようになりました。医師の語り口や治療に対する姿勢が動画を通して伝われば、信頼形成に寄与します。SNSは地域との接点づくりや病院の雰囲気を伝える役割として活用されています。

大事なのは、これらの施策を単体で実施するのではなく、患者の情報収集から受診までの流れを意識し、一連の導線としてつなげて設計することです。

広告ガイドラインに注意

医療広告ガイドラインには多くの制限があります。特に注意すべきなのは、治療の効果を断定する表現や、症例数や治療成績の不適切な記載、患者の声の掲載、比較広告などです。
ガイドライン違反を避けるために、事前のチェック体制を構築し、適切な表現を選択することを心がけましょう。症例数や実績は事実に基づくことが必須で、誇張した表現は厳禁です。治療効果は「可能性がある」「傾向がある」といった慎重な表現に留めましょう。

医療機関としての責任を果たすという意味でも、情報の透明性を保ち、患者に寄り添った伝え方をすることが求められます。最近では広告ガイドラインについての知識を持つ担当者を採用する病院が増えており、これからの時代は、ガイドラインを理解した上でのマーケティングが必須になると感じています。

まとめ

病院のデジタルマーケティングは、医療広告ガイドラインや診療報酬制度、患者行動の特性といった制約が多く、一般企業と同じ発想では成果を出しにくい分野です。

重要なのは、すべての診療科に施策を広げることではなく、「デジタル親和性」「収益貢献度」「症例数」の3つの視点から、デジタル施策が集患へつながる見込みのある診療領域を見極めることです。

そのうえで、SEOや広告、動画などの施策を患者の情報収集から受診までの流れに沿って設計すれば、デジタルマーケティングは病院経営を支える実践的な手段になります。

お問い合わせ

Contact us

お気軽にお問い合わせください。

採用情報

Recruit

ヘルスケア産業におけるリーディングカンパニーの
一員として共に成長してみませんか?