ユカリア独自の電子カルテデータベースを用いた
老化指標確立の試み
人の寿命についての研究の難しさ
「老化」というテーマに取り組む大阪大学大学院医学研究科の中神啓徳教授は、自身の行いたい研究に適したデータの収集が難しいことに課題を感じていた。
老化や寿命に関しては、さまざまな先行研究が存在する。
癌・高血圧・動脈硬化・心不全といった単一の疾患における予後分析やリスク評価はかなり進んでいる。また、検診データベースを活用した分析からは、生活・飲酒・運動習慣・喫煙などの生活習慣と死亡リスクとの関連性の解明や、健康寿命の予測が行われてきた。
しかし、中神教授は、病院データを用いたより分野横断的な解析が必要だと感じていた。
近年では癌・高血圧・糖尿病・腎臓病などの生活習慣病の有病率が以前にも増して増加しており、それらの複数の疾患に罹患した「多重合併症患者」が増えているためだ。
こういった現状を踏まえた老化や死亡のメカニズムを明らかにするためには、個々の疾患のガイドラインに当てはめた分析だけでなく、分野横断的な分析が必要となる。
実際の分析にあたっては、人を使った寿命に関する臨床試験は研究デザイン的にも倫理的にも実施が困難であり、もし実現できたとしても途方もない長期間になることは明白だ。そのため、リアルワールドデータを用いた後ろ向き観察研究を行う必要があった。
大学病院のデータは万能ではない
ところが、いざデータを集めようとすると、目的に合致したデータを収集することが思いのほか難しいことが分かってきた。
実は、自身が所属するような大学病院で人が亡くなることは少ない。高度急性期の生死にかかわる患者ももちろんいるが、大学病院の多くの患者は存命のまま退院し、転院先の医療機関や施設で亡くなっている。しかも人が大学病院で医療を受ける期間はほんのわずかで、せいぜい数週間~数か月だ。所属する大阪大学病院のデータも、死亡した患者のデータは十分ではなかったし、観察できる期間も限られていた。
また、特定の疾患に専門性を持つ専門病院のデータも、分野横断的な分析を行うという目的に照らした場合、適切とはいえなかった。
中小病院のデータが活躍する場面もある
一方、ユカリアのパートナー病院のような市中の中小規模病院は、大学病院や地域の基幹病院の後方連携先として日々多くの慢性疾患患者や高齢患者を受け入れていた。複数の疾患に罹患した患者も多く、長期の診療期間を経て亡くなる患者も多数出てくる。
老化や寿命を研究テーマとする中神教授にとっては、大学病院のデータよりも、ユカリアのパートナー病院のデータの方が必要なデータだったのだ。こうして中神教授の研究が本格的にスタートした。
手始めに、死亡日から10年間遡った期間の疾患名・治療薬・検査薬のデータから「死亡に寄与する疾患」の分析を試みた。
その結果、直接的な死因としても多い肺炎や心不全といった疾患は死亡への寄与も大きかったが、貧血の寄与度が高いといった意外な傾向もみられた。
研究が社会に役立つ日を夢見て
中神教授の研究は始まったばかりだが、思い描く構想は壮大だ。「老化指標」やその手前の「健康寿命指標」を開発したいと考えている。これまでも日々の行動が血糖値やコレステロール値にどう影響するか、といった部分的な指標は存在したが、それらを包括した総合的なスコアリングを目指している。健康維持へのモチベーションアップにつなげたり、日常診療に活かしたり、夢は広がる。
ユカリアはこれからも中神教授の研究を応援していきたい。
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