【TOP対談~変革者に聞く】#03「心理的安全性」を高め、 よりよい組織づくりを推進する。<前編>
帝京大学ラグビー部を監督として率いて、前人未到の9連覇を含む10度の大学選手権優勝を達成。大学スポーツ界にイノベーションを起こした岩出雅之氏と、株式会社ユカリア代表取締役の古川淳が、昨今組織づくりにおけるキーワードとして話題の「心理的安全性」について語り合いました。
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http://www.teikyo-u.ac.jp/studentlife/club/sportsbureau/
心理的安全性×責任感・挑戦心=学習する集団
古川:
当社では、2022年度の全社スローガンを「心理的安全性の醸成」と定めました。ユカリアグループでは「球体経営」を掲げ、コーポレートカルチャー変革に取り組むなかで組織の縦割り(セクショナリズム)は解消されてきていますが、階層文化(ヒエラルキー)が依然として残っているように感じていました。その要因のひとつに「心理的安全性」の低さがあるのではないかと考え、今回のスローガンへと繋がりました。
今、勢いのある病院や企業は、もれなく有機的な組織として機能しています。ユカリアグループやパートナー病院でも「心理的安全性」の高い組織を目指していきたいと考えています。
岩出さんは以前より「心理的安全性」が高いチーム作りを標榜され、前人未到の9連覇を含む10度の大学選手権優勝という結果を残されました。
体育会にイノベーションを起こした監督時代、どんな取り組みでチームの「心理的安全性」を高めていましたか?
岩出:
さまざまなことに取り組みましたが、わかりやすいところでは、学生のヒエラルキーを変えたことです。4年生を頂点とした階級の存在によって、下級生、特に新しい環境に飛び込み緊張している1年生が大量の雑務などに苦しんでいる姿を見て「これはチームとしておかしい」と。
そこで、少しずつ上級生に雑務を移行していきました。すると、下級生は上級生が率先して行動してくれている姿に感動し、自分たちもがんばらなければと相乗効果を生み出すことに成功しました。
古川:
まさに「心理的安全性」の導入によってチームが変わっていった好例ですね。
岩出:
しかしながら、心理的安全性を高めるだけでは、ただの【ぬるい組織】になってしまう危険性もある。実際に、下級生たちの感動も、日が経つごとに薄れていってしまった印象です。だからこそ、そこに責任感や挑戦心も適度に持たせることで健全な衝突を生みだし、継続的かつ能動的に学び成果をあげる【学習する組織】を目指すことが大切だと考えています。
古川:
確かに、そこは肝に銘じておきたい部分ですね。
我々が関わっている病院という組織では、そこまで【ぬるい組織】になることもないのかなと思います。なぜなら「目の前の人を助ける」という絶対的な正義があるから。その点、「心理的安全性」の導入による変革は進めやすいのかもしれないですね。
岩出:
それは頼もしいですね。
「状態」と「特性」を理解したうえで声掛けを
古川:
一方で、病院では今も旧態依然としたトップダウン方式が根強く残っています。最初にお話したようにユカリアグループ内でも同様の問題を感じています。「心理的安全性」が低いなかで、高い責任を求められる。それは【キツイ組織】であって、それこそ【学習する組織】からはほど遠いですよね。
そのような組織においては、まずはトップの人間がどのように変わっていくべきだとお考えですか。
岩出:
ひとつは、介入しすぎないことだと思います。
特に私のような指導者という立場にあると、選手の一挙手一投足にまであれこれ指示したくなります。でもそれでは、言われた通りにすることしかできない、自ら考えることをしなくなる選手を育てているだけ。これでは逆効果です。
声を掛かけるうえでは「状態」と「特性」を理解する必要があります。人として選手としてもともと持っている「特性」を変えることは困難ですが、現在の「状態」を変えてあげることはできます。何か問題を指摘する際は、必ず「状態」を正す。「特性」を指摘してはいけないのです。
古川:
なるほど、勉強になります。ただ、そういった考えを理解していても、実際に現場での声掛けはなかなか難しいものがあるように感じます。今言うべきか、待つべきか。もしくはどんな言葉をかけるべきか、あえて叱るべきか……。
岩出:
それはもう、芸術です(笑)。
古川:
やはり匠の世界ですよね(笑)。それこそ経験を重ねていくしかないというか。それでも岩出さんのお話からは、声を掛けたい場面でもぐっと堪えて待つことに、マネジメントの真髄のようなものを感じます。
岩出:
自分をコントロールする力は、指導者には絶対に必要です。
例えば表情もそのひとつ。どんなときも選手たちに情けない顔は見せないようにしていましたし、ピンチの場面であっても「絶対に大丈夫」という表情を心がけていました。すると不思議と、選手たちもネガティブにならないですから。
それと、あくまで「選手が主役」を忘れてはいけません。勝者インタビューのときですらそう考えていました。通例では監督がまずインタビューを受けます。そこで何でもベラベラ喋ってしまうと、その後選手が話すことがなくなってしまう。そのため例え「つまらない話しかできない監督だな」と思われても、選手が話しやすい舞台を整えて、彼らがカッコよくカメラに映るようにしてあげるのです。