虎の巻その25 「Withコロナ」に向けて、3つのリスク整理(上)~患者環境変化のリスク
はじめに
こんにちは。虎兄(とらにぃ)です。昨年3月に開始した病院経営コラム「病院経営~虎の巻~」ですが、早いもので1年半が経ちました!そして今回で25回目となります。
当初は2020年の創立15周年を機に、これまでユカリアが蓄積してきた知見を踏まえ、医療従事者はもちろんのこと、ヘルスケアビジネスで病院と深く関わっている方、他業界ながら医療・ヘルスケア業界に興味がある方など、一人でも多くの方が「病院経営」について気づきや理解を深めていただくことを目指して当コラムをスタートさせました。
虎の巻その1を構想・執筆時はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)が日本に蔓延する前で、得体の知れないウイルスが中国でパンデミックを引き起こしていると報道されていた頃でした。
その後、感染症専門病棟開設へのコンサルテーションを実施し、民間病院初のコロナ専門病棟の開設もしました。しかしながら、COVID-19という未知のウイルスは過去のノウハウや医療経営という正攻法で解決できるような生半可なものでは無いという事を実感しています。
この原稿を執筆している時点で、ワクチン接種が進んだことによる行動規制緩和について、政府が検討をはじめたと報道されていて「Withコロナ」への対応が求められています。
今回からのシリーズでは、病院経営の視点から押さえておきたい3つのリスク「患者環境変化のリスク」、「財務面のリスク」、「職員退職のリスク」について一つずつ説明します。
患者環境変化のリスク
COVID-19の流行という長い夜の夜明けの兆しが見えはじめた所で「Withコロナ」の中期計画を描く必要があります。
虎の巻その11で病院の収入は【患者の数】×【診療単価】、その患者数は【入院】、【外来】、【その他】に分類できるとお伝えしました。
その【患者の数】がどれだけ戻るかという想定をする際に、単純にCOVID-19感染拡大前の患者数を想定してしまうのは実態と乖離が大きくなるため、改めて環境分析が必要になります。
①入院部門
入院診療は医療機関の診療形態により影響は様々です。平均在院日数の長い地域包括ケア~療養病床は病床稼働減少の影響は少なく、急性期寄りの病院の方が病床稼働や手術件数減少の影響が大きいです。
まずはルート毎に今後の予測のポイントをみていきます。
入院経路のベースは大きく3つ、[外来からの入院]、[救急からの入院]、[他院からの転院]、に分けられます。(こちらも虎の巻その11の収入構造ツリーをご参照ください)
[外来からの入院]は、COVID-19の影響で延べ患者数の減少は著明です。過去の外来診療からの入院割合を算出すると、今後の外来からの新規入院件数の推測値を割り出す事ができます。
[救急からの入院]は、自治体が公表しているデータをもとに分析ができます。報道によると、2020年上半期(1月~6月)の出動件数が神奈川県相模原市は12.2%減少、千葉県千葉市が11%減少と「○年ぶりの大幅減少」という記事を目にする機会が多かったです。
[他院からの転院]は、急性期病院の在院日数により、ポストアキュート(※1)をメインで行っている医療機関への影響は少ないように感じられます。
また、疾患別の環境変化を捉えるためにはMDCコード(※2)での疾患別分析も非常に有効です。
※1 ポストアキュート
急性期後に引き続き入院を要する状態
※2 MDCコード
Major Diagnostic Category:WHOが制定している分類に基づく18の主要診断群のこと
②外来部門
外来診療は実日数ベースの受診患者に減少している医療機関が殆どです。実患者ベースとの比較を行ってみるのが良いでしょう。(表1)はある病院の分析例です。
延外来患者数(A)は79.4%減少し収入減の影響を受けていますが、実人数(B)は93%と減少幅がAより大きくありません。受診回数は減りましたが、地域の患者が減少した訳では無いという仮説が成り立ちます。数値も用意してから現場との検討を行います。この病院の場合下記のような背景が見えてきました。
- 〇〇医師は緊急事態宣言より処方日数を変更
- 整形外科の消炎鎮痛、外来リハは減少が著明
- 追加で科別に初再診料の統計をみると、初診は前年比を上回る診療科も存在する
- 小児科は発熱外来のオペレーション変更により、1患者あたりの滞在時間が長くクレームが多い
③その他
人材紹介会社からの情報によると、開業医の紹介登録が増えていると良く聞きます。
COVID-19の影響による収入減少は東京都保険医協会の調査では9割と開業医への影響は多大で、建物や賃料、設備費用などの多くの固定費が重くのしかかり厳しい経営状況になっています。近隣のクリニックの動向も探っていくと今後の外来患者数の計画に役立つでしょう。
最新の情報は厚生局のホームページからでも良いですし、医師会からの情報収集も有効です。地域医療を守る病院であれば患者の引継ぎを積極的に行う必要があります。
まとめ
- 「Withコロナ」の病院経営リスクは「患者環境変化のリスク」、「財務面のリスク」、「職員退職のリスク」の3つ
- 「Withコロナ」での経営計画ではCOVID-19感染拡大前の患者数で計画を立てると実態との乖離が起きる
- 患者数を分析する際の情報源は自治体や厚労省、医師会などの直近のデータを使用する