看護師が手術室の運営をマネジメント。モニタリング指標を評価し、タスク・シフト/シェアを推進することで効率化を実現

地域密着型病院が挑んだ手術室の改革
神奈川県相模原市にある「さがみ林間病院」は、急性期病床と回復期リハビリテーション病床、地域包括ケア病床を持つ199床の地域密着型病院です。ユカリアは2023年5月から同院の経営・運営の支援を続けてきました。
同院は様々な業務改善に取り組んできましたが、特に課題が顕在化していたのが手術室の運営でした。看護師に手術室の運営管理業務を任せ、運用実績をエビデンスとしながら業務のタスク・シフト/シェアを進めることで、看護師の業務負担を軽減し、手術室運営の効率化につなげることができました。
手術室の効率的な運営を妨げる2つのボトルネック
同院では手術室の運営にあたり、2つの課題を感じていました。1つは、手術室の管理業務を担っていた麻酔科医の体制が不安定で定着しないため、手術申込時の調整がスムーズに進まないこと。2つ目は、看護師に比較的広い業務範囲を任せる一方で、手術件数だけを運営上の指標としていたために、看護師の配置数が手術室全室をフル稼働させた状況を前提とした人数になっていたことでした。看護師は全国的に人材不足が深刻で、どの病院も確保に頭を痛めており、同院も例外ではありません。そのため、院内の各部門に過不足なく適切な数の看護師を配置することが求められていました。
これらの課題が手術室の効率的な運用の大きなボトルネックであると考え、課題解消のために、タスク・シフト/シェアにより手術室スタッフの業務範囲と役割を見直し、客観的なデータに基づいて運用の改善を進めることにしました。
組織体制の見直し
最初に行ったのは、手術室の組織体制の見直しです。手術室のマネジメントを看護の新たなコア業務とすることができると考え、リーダー看護師を手術室センター長の直下に位置づけて、手術室の管理を一任することにしました。

現状把握のためのモニタリング指標を設定
運用の見直しを進めるためには現状を正確に把握することが必要です。以下の指標を継続してモニタリングすることとして、集計を開始しました。

タスク・シフト/シェアを推進
モニタリング指標をはじめとしたデータの分析結果を踏まえながら、タスク・シフト/シェアを図のように進めることとしました。

これまで、中央材料業務や環境整備業務は看護補助者と、請求業務はクラークと役割が重複した状況でしたが、それぞれの職種へ完全に移行しました。また、看護師が行っていた直接介助と間接介助の業務は、臨床工学技士や看護補助者の役割とすることが適切と考え、移行を開始しました。
看護師の業務時間を1日あたり6時間削減
取り組みの結果は次のとおりです。
手術室の組織体制を見直し、リーダー看護師のもとに情報を集約するようにしたことで、手術依頼に対して速やかにスケジュール調整することが可能になりました。
モニタリング指標の集計によって、診療科や術式、曜日ごとの稼働率のほか、手術運営の特徴や傾向が把握でき、手術に要する時間を高い精度で予測したり、手術内容に応じて適切な人員数を見込んだりすることができるようになりました。
指標の分析結果をもとに進めたタスク・シフト/シェアでは、手術室看護師の業務時間を従来と比べて1日あたり6時間減らすことに成功し、看護師の業務負担の軽減が実現できました。

また、効率的に手術を組み合わせることができるようになったことで、人員数や残業時間を増やすことなく、手術件数と稼働率を向上することができました。手術件数は1か月あたり13.4件増加し、稼働率は5.1%上昇しています。
さらに、一連の取り組みの効果は手術室の効率改善だけにとどまりません。業務時間の削減に伴って看護師を他部門へ配置転換したことにより、同院の看護師不足の解消にも貢献しました。
手術室の運用改善は病院経営の鍵
手術は病院の医療の質を左右するだけでなく、多くの医療資源を投入する点から収益にも大きな影響を与えます。手術室の効率性や収益性の向上、スタッフの持続可能な働き方に向けた取り組みは、病院経営における最重要課題の1つです。
しかし、多くの職種が細やかに連携して業務を進めている手術室は、いざ改善に取り組もうとすると、それぞれの主張が入り乱れて諸説紛々とした状況になりやすい部署でもあります。それぞれの立場に基づいて異なる主張が展開されると、問題の整理が進みません。
同院では、手術室のマネジメントを看護の新たなコア業務として確立した看護師が、現状を客観的に把握できる指標データを活用しながら運用の改善を進めることで、効率的な手術室運営を実現しました。
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