虎の巻その36 入院患者を増やすために大事な地域連携。強化するために押さえるべき4つのポイント
 
                こんにちは。虎兄(とらにぃ)です。病院経営コラム「病院経営~虎の巻~」。
新規入院患者数の最大化は、病院経営において収益の安定と病床稼働率の維持に直結する重要課題です。入院患者の流入経路は「外来」「救急」「紹介」の3つに大別されますが、特に中規模以上の病院や、急性期病床を持たない回復期や慢性期が中心の病院にとって「紹介」は重要なチャネルです。
紹介は地域の様々な施設とのネットワークと信頼関係によって支えられています。地域連携を強化することは、単なる紹介営業ではなく、病院の長期的な収益を左右する戦略的な取り組みといえます。
本コラムでは、地域連携の現場で紹介に関してよくみられる課題と、それを解決するために行うべき取り組みを整理します。
地域連携の現場でみられる3つの課題
地域連携は理念としては理解しやすいものの、実際の運用には多くの課題がみられます。
1.紹介や退院の経路を把握できていない
どこから患者が流入し、どこへ退院しているのか。自院の紹介患者のルートを定量的に把握している病院は多くありません。担当スタッフの属人的な記憶や経験に頼りがちで、その結果、紹介ルートが細っていることに気づけず、病床稼働率が低下しているケースが散見されます。
2.紹介元や紹介先施設との情報共有が不十分である
病院は地域連携を行ううえで、既に関係性が強くてコミュニケーションがとりやすい施設を重要視しがちです。しかし、互いの施設特性や患者層を知らないまま患者の紹介や受け入れを行うと情報共有がスムーズに進まないことが多く、患者や家族との間で認識の齟齬が生じたり、施設間トラブルが起きたりします。
3.営業や広報の活動が弱い
地域連携室を設置していても、地域の施設に対しての営業や広報の活動が弱く、十分に実を結んでいない場合があります。認知度が低く、自院の強みが周知されていなければ集患や増患に結びつきませんし、地域の信頼を得られていないケースも少なくありません。
紹介件数を増やすために取り組むべき4つのポイント
                                    1.データに基づく分析
•紹介元や退院先をリスト化する
紹介と退院の実績をもとに、地域にある施設を急性期・回復期・療養・介護施設などの施設機能ごとに整理します。病院からおよそ半径10kmの施設を対象にします。
•実績を分析する
施設ごとに紹介件数と入院数、入院率を集計し、グラフに加工します。紹介数は多いが入院につながりにくい施設や、最近紹介が大きく減少している施設などを視覚的に把握できるようになります。
 
                表:近隣施設ごとの紹介件数などをまとめたグラフの例
2.営業活動の強化
•訪問先の優先順位を設定する
分析結果をもとに、訪問すべき施設の優先順位を設定し、その目的を明確化します。紹介件数は多いがあまり入院につながっていない施設や、紹介件数が大きく減少している施設は優先的に訪問しましょう。前者では入院調整のフローに課題がある可能性があります。受け入れのフローを確認し、調整しましょう。後者についても、紹介件数が減少している何らかの理由があるはずです。自院に問題がある場合はただちに対応し、関係性の再構築を目指します。
また、事業承継で院長が代わった診療所や新規に開業した診療所は、優先して訪問すべきです。ある病院では、加入している医師会から情報を共有してもらったり、チラシやネットの求人情報を調べたりすることで訪問候補先の施設を リストアップし、漏れがないように訪問していました。
•営業活動に医師を巻き込む
地域連携室のスタッフだけでなく、医師も営業活動に積極的に協力する体制を整備しましょう。診療科ごとの強みや特色、対応可能な疾患などを医師自身が訪問先の医師に説明することで、紹介の精度が向上し、入院につながる患者の割合も増加します。また、医師が営業活動に参加することで、病院として地域連携に本気で取り組んでいる姿勢が伝わり、信頼感や好印象を与えることができます。
過去に支援した病院では、各診療部長が営業担当の医師を割り当て、向こう6か月間の△曜日は〇×医師が営業活動に参加する日と定めることで、一過性に陥りがちな医師の営業活動を継続的な取り組みとして進めていました。
•受け入れの可否を即答できる体制を整備する
紹介を受けた際に、受け入れ判断をただちに行うことは信頼の獲得に直結します。介護度が高い、複雑な合併症があるなど、受け入れの可否を速やかに検討できる体制をあらかじめ整えておきましょう。
3.ソーシャルワーカーによる地域との積極的な関係構築
ソーシャルワーカーは、医療と福祉をつなぐ「地域連携の要」として、他の医療機関や福祉施設との連絡調整を担い、患者の紹介や逆紹介を円滑に進める役割が期待されています。地域との関係を構築、強化するため、地域のケア会議や多職種連携会議に積極的に参加するように後押ししましょう。
4.経営層によるメッセージの発信
地域連携は現場任せにするとなかなか定着しません。病院長や事務長自身が「地域に対して自院がどのように貢献するか」を示したうえで、地域連携は病院経営の柱であることを院内に繰り返し発信し、地域連携室の活動を正面から評価しましょう。地域連携に対するスタッフの意識向上につながります。
 
                まとめ
地域連携の強化は、紹介患者を単に増やすための営業活動ではなく、病院の持続的な成長を左右する戦略的な取り組みです。
紹介件数を増やすために行う地域連携のポイントは、次の4点に集約できます。
•データを活用して、流入と流出のルートを定量的に把握する
•訪問する施設の優先順位を設定し、その目的を明確にする
•医師やスタッフを巻き込む
•病院長や事務長自身が旗振り役となる
地域連携業務に対して病院をあげて地道に取り組むことが、入院につながる患者の増加につながります。定量的な数値をもとに、地域との関係性を戦略的に強化しましょう。