収支の改善を目指す精神科病院。自院の特色や地域ニーズを踏まえた病棟再編を実施
近年経営環境が大きく変化し、転換期を迎えている精神科病院。経営を維持するためには地域の精神医療ニーズや国の施策に合わせた取り組みが求められています。
ユカリアが経営を支援する、あしりべつ病院(札幌市)は赤字収支の脱却を目指して病床機能の再編に着手。患者層の特性を踏まえ、1つの病棟を特殊疾患病棟に転換した結果、稼働率を維持しながら入院単価の向上を実現しました。
低迷する入院単価向上の検討を開始
あしりべつ病院は、急性期と精神一般、精神療養からなる6病棟で合計316床を有する精神科病院です。同院では近年赤字が続き、黒字化対策の検討のために収支を分析したところ、費用の低減や適正化のほか、医業収入を上げるために入院単価の向上が不可欠であると考え、具体的な対策の検討を始めました。
自院の医療機能から特殊疾患入院施設管理加算に着目
病棟で算定できる入院料や加算を改めて洗い出し、従来算定している点数以外の入院基本料や加算の実現可能性を模索した結果、特殊疾患入院施設管理加算に着目しました。
同院では精神疾患を主病とした重度の知的障がいを持つ方に対して、診断や治療、薬物調整といった医療支援に力を注いできました。これは他院にはあまりみられない同院の大きな特徴でしたが、収支の上では課題を抱えていました。退院の判断があっても、地域に障がい者施設が少ないことから受け入れ先の選定に苦慮し、結果的に同院で入院が長期化している事例が多かったのです。長期入院の際の加算算定がないため、入院単価が低迷する一因になっていました。
そして調査の結果、この患者の一定数が特殊疾患入院施設管理加算の対象にあてはまり、全入院患者数に対する対象患者数の割合要件もクリアできることがわかったのです。
特殊疾患入院施設管理加算を算定することで、医療と福祉のはざまに置かれた患者を引き続き受け入れながら、収益の安定化も図ることができるのでは――。収益性の検証のために加算算定のシミュレーションをすぐに始めました。
下記グラフは、入院経過週数に対する入院基本料と加算の単価推移イメージです。単価は同院で算定した場合の条件に基づいて計算しています。入院が13週目を超えたとき、多くの基本料や加算で単価が大きく下落しますが、特殊疾患入院施設管理加算では下落幅を比較的低く抑えることができます。

表:入院経過週数に対する入院基本料と加算の単価推移(推計)
※ユカリア作成 ※2024年現在の点数で、あしりべつ病院で算定した場合の条件に基づいて計算
検討の結果、まずは1つの病棟で特殊疾患入院施設管理加算の算定を目指すことになり、転棟作業を開始しました。
再編の結果、入院単価は上昇。さらに認知症治療病棟の検討も開始
2024年7月に特殊疾患入院施設加算の検討を始めた後、実績を作成して届出が完了したのは同年12月です。結果的に入院単価は以前と比べて2,700円以上、上げることに成功しました。稼働率は転棟作業の影響で一時的に伸び悩みましたが、その数カ月後に回復基調に転じています。
地域には重度の認知症に対する医療ニーズがあることを踏まえ、同院では2025年現在、次のステップとして認知症治療病棟の開設を検討しています。改修工事のほか、地域の一般病院や老健との連携や、患者獲得に向けた新たな取り組みが必要であるものの、認知症専門医と認知症認定看護師はすでに在籍しており、必要な人的リソースは確保されています。
特殊疾患病棟への転棟に始まった同院の病棟機能の見直しプロジェクト。収益性を高めることを意識しながら、自院の強みや地域の医療ニーズから目指すべき医療は何かを考え続けることで、経営の変革にさらに弾みをつけたいと同院では考えています。
精神科病院に求められる経営戦略
精神科病院を取り巻く環境は近年急速に変化しています。外来での治療が一般的になりつつある統合失調症は入院患者の減少が続く一方で(下記グラフを参照)、高齢化の進展によって、糖尿病や慢性心不全との身体合併症や認知症に対する医療ニーズは増加傾向にあります。

グラフ「精神疾患を有する入院患者数の推移」
※厚生労働省 |社会・援護局「精神保健医療福祉の現状等について データ「精神疾患を有する入院患者数の推移(疾病別内訳)」を元に作成
https://www.mhlw.go.jp/content/12205250/001255285.pdf
国は、2004年の「精神保健医療福祉の改革ビジョン」において「入院医療から地域生活中心へ」の理念を示して以来、精神疾患を持つ患者の地域への移行支援を進めてきました。最近の診療報酬改定を振り返ると、精神科地域包括ケア病棟入院料が2024年に新設され、精神障がいにも対応した地域包括ケアシステムの構築に向けた動きに拍車がかかっています。基本的な政策の方向性は今後も変わらないと考えられ、精神科病院はアウトリーチのさらなる強化、病棟の構成や規模の検討、介護・福祉施設との連携などを進めることが求められるでしょう。
長期入院に依存する従来の状況から脱却し、地域社会に開けた病院として地域との連携を重視した経営戦略を策定することが、今後一層重要になるとみられます。
あしりべつ病院の病棟再編は、ユカリアが支援する他の精神科病院の運営ノウハウや取り組みを応用することで、スムーズに進めることができました。ユカリアが経営を支援する病院の精神科病床数は、全国で合計すると1,666床にのぼります(2025年4月現在)。
ユカリアは蓄積したノウハウをもとに、精神科病院の支援をさらに強化してまいります。
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