• ホーム
  • ニュース
  • 【病院経営サポート・あいらいふ】「ソーシャルワークの現場から -支援連携の輪-[埼玉]医療ソーシャルワーカー・ 和田

【病院経営サポート・あいらいふ】「ソーシャルワークの現場から -支援連携の輪-[埼玉]医療ソーシャルワーカー・ 和田

20241216
株式会社あいらいふ

医療ソーシャルワーカー・和田
medical social worker/Wada Mana

“お任せ”にできない時代 家族の選択 そっと支える

医療資源のひっ迫を防ぎ、患者さんに最適な形で医療を提供するための地域医療連携の仕組みが、ますます求められる現代。埼玉県川口市の川口工業総合病院で、医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)として働く和田さんに、地域医療連携の取り組みについてお話をうかがった。

若くして志したMSW

■あいらいふ編集部(以下、あいらいふ):
本日はお時間をいただき、ありがとうございます。まず、和田さんがMSWのお仕事を志したきっかけからお聞かせください。

■医療ソーシャルワーカー・和田さん(以下、MSW和田):
母がもともと看護師だったこともあって、病院に関係する仕事に接する機会が多かったんです。中学校を卒業する頃にはもう、病院の相談員になりたいと思っていました。

大学では福祉系の学科を専攻して、社会福祉士の資格を取得。卒業後は埼玉県内の病院にMSWとして就職しました。

当時は、全国の病院でMSWの採用が増えていた時代ですが、それでも今ほど一般的な職業ではありませんでした。徐々に必要性が認められてきた職種だと感じています。

■あいらいふ:
目指していたMSWになってみて、思い描いていた姿と現実とのギャップはありましたか?

MSW和田:
ご相談に乗っていて、患者さんやご家族のご希望通りに進まないケースも少なくない仕事です。当初は本当に難しいと感じることが多かったし、経験不足からくる不安もありました。

それでも、さまざまなご事情を抱えている患者さんの相談に応じていくうちに、少しずつMSWとしての視点や考え方を持てるようになったと思います。患者さんの課題解決につなげられたと感じられる機会が増えると、仕事に対するやりがいも見出せるようになりました。

川口の地で半世紀

■あいらいふ:
和田さんが現在勤務されている、川口工業総合病院の特徴について、お聞かせください。
 
MSW和田:
当院は12の診療科からなる199床の総合病院で、二次救急医療機関としての役割を担っています。救急車で運ばれてきた方に対応する、急性期の病院ですね。
 
特に整形外科は、人工関節手術やスポーツ外来の分野で、地域の内外を問わず評価をいただいています。消化器内科・外科などの科も実績が豊富です。
 
隣接する戸田市や草加市など、川口市外からの患者さんも多く、また市の南端に位置し、東京都内にもほど近いという場所柄、北区や足立区からも患者さんがいらっしゃいます。
 
退院後は、住み慣れた地域で、継続して治療やリハビリを受けられるように、公的機関や他の医療機関との地域医療連携もしっかりと行っています。
 
■あいらいふ:
かつては鋳物の街であった、埼玉県の川口市。以前は鋳物関係者らの健康保険組合によって運営されていた川口工業総合病院は、創設以来、半世紀以上にわたり市の地域医療に貢献されてきました。
 
また、2020年には、全国の民間病院で初となる新型コロナウイルス感染症の専門病棟を開設したともうかがいました。お勤めになられていて、地元の方や診察に来られた方から、そうした地域への貢献に対する、病院への信頼を感じますか?
 
MSW和田:
地域に根差した病院という思いはありますね。整形外科をはじめ、当院を指名して来院される患者さんもいらっしゃると聞いています。
 
昔、当院に小児科があったときに、私も入院していたことがあるんです。今よりずっと古い建物でしたけれど。変わらずにある地元の病院というイメージが、皆さんの中にもあるのかなと思いますね。
 
■あいらいふ:
子どもの頃から、和田さんの中にあった「病院」のイメージも、川口工業総合病院のものだったかもしれませんね。

MSW和田:
そうですね、縁のある病院というか。いま考えると、本当にそんな感じです。

地域医療連携の取り組み

■あいらいふ:
在宅復帰、転院、施設への入居など、退院後の選択肢がさまざまに分かれる中、急性期を経て回復期に至るまでの間、継続的に安心して医療を受けるためのポイントとなるのが、地域医療連携です。川口工業総合病院の取り組みを教えていただけますか?
 
MSW和田:
より地域に根差した医療を提供するため、20234月に、以前は別の部署だった地域医療連携室と入退院支援室を集約し、「患者サポートセンター」を新設しました。入院支援・退院支援・地域医療連携・患者相談という4つの機能を、1つの部署に集約しています。
 
現在は、退院支援看護師が1人、他に入院支援看護師と事務スタッフが3人ずつ、MSWが私を含めて2人、の9人体制です。
 
私は退院支援をメインに担当していますが、地域医療連携では、他院からの転院を中心にご相談を受けています。関連する部署が一堂に会したことで、各診療科と地域医療機関、公的機関などの間で、これまで以上に緊密な連携が取れる体制が整いました。また、看護師さんの配置が変更されたことで、入退院支援もより充実させることができています。

急性期病院のソーシャルワーク

■あいらいふ:
和田さんはMSWとして10年以上のキャリアをお持ちです。以前は療養型の病院にお勤めだったとうかがっていますが。
 
MSW和田:
重症の方や長期入院の方のための病棟が多い、慢性期医療がメインの病院でした。急性期の病院とは、入院期間や病状の面でだいぶ異なっていましたね。
 
■あいらいふ:
急性期病院の患者さんの入院期間は、国から2週間程度と推奨されています。限られた期間内での退院支援にはご苦労も多いかと思われますが、スムーズな支援に向けて、どのような工夫をされていますか?
 
MSW和田:
当院は急性期病院ではありますが、199床のうち38床を、リハビリや退院支援など、国から許可を受けた「在宅復帰支援のための病棟」である地域包括ケア病棟に充て、地域医療への貢献を図っています。
 
また、平日は毎日、医療チームとカンファレンスを行っています。入院された時点で担当の医師や看護師と多職種間での検討を始めており、事前に患者さんについてある程度のご状況を把握できています。
 
早めにMSWが介入したほうがいいと感じた場合は、治療を始められた段階で、ご本人やご家族と情報を共有し、少しずつ退院後の生活相談を行っていきます。
 
■あいらいふ:
退院後の選択肢には、高齢者施設への入居も含まれると思われますが、あいらいふをはじめとする老人ホーム紹介事業者に対しては、どのような印象をお持ちでしょうか?
 
MSW和田:
退院後の在宅復帰が難しい方には、施設へのご入居をご検討いただくようご提案することもありますが、民間の有料老人ホームの場合は数も多く、条件なども都度変更されるので、私が持っている情報だけで、特定の施設をご案内することはほぼないですね。
 
やはり情報量が違いますから、プロフェッショナルである紹介事業者さんを通して、その方に適した施設の選定をお願いしています。その際は、患者さんのご状況をきちんと正確にお伝えすることを心がけています。

聞くべきこと、尊重すべきこと

MSW和田:
MSWになりたての頃は、マニュアル通りに進めなければ、と思い込んでいて。聞き取りのシートを埋めることにばかり気を取られていたせいで、特定の支援が不要な患者さんにまで踏み込んだ質問をしてしまい、ご不快な思いをさせてしまった経験があるんです。
 
その場合、その後の信頼関係を築き直すことも難しくなってしまう。後から振り返ったときに、これは本当に聞くべきことだったのか、自分が支援する上で本当に必要な質問だったのか、自問自答しました。
 
もちろん、こういう理由で必要なのだときちんと説明できれば、そうは思われなかったのかもしれません。でも、その時はたぶん、ルーチンワークのような質問の仕方だったのかな。
 
同じ質問であっても、質問の仕方でその人との関係性を深められるとき、深められないときがあることを知りました。
 
■あいらいふ:
その“押し引き”がわかることで、信頼関係をよりスムーズに築けるようになりましたか?
 
MSW和田:
そうですね。キャリアを重ねて、患者さんとご家族の選択を第一に考えるようになったことで、変わりました。
 
こちらから聞くべきことは絞り込む、患者さんからお話しいただけることには耳を傾ける。その見極めが、MSWにとっての専門性なのかなと感じます。
 
中にはいくつものお悩みを抱えていて、ご自身でも何に一番困っているのか、把握できない状態でご相談に来られる方もいます。
 
そういった患者さんのご事情を理解し、一緒に課題を整理していく中で、問題の本質が明確になっていき、ご本人が解決の糸口を見つけられたときに、MSWという職業の意義を実感します。MSWは、ご本人の自己実現をサポートする縁の下の力持ちでありたいというのが、現在の私のモットーです。

家族の選択 そっと支える

MSW和田:
以前、一つの病院内で治療が完結していた時代は、治療法やリハビリ、療養先など、病院側から患者さんに対して一方的に提案するケースが大半でした。
 
一方で、近年は治療、リハビリ、療養と、医療機関ごとの機能が分かれてきています。患者さんの病状、ニーズに合わせて適切な選択肢をご提案しながら、最終的な判断はご本人とご家族に委ねるようになりました。
 
■あいらいふ:
ご高齢の患者さんの中には、「入院すれば、最後までそこで看てもらえる。あとは病院にすべてお任せします」という、旧来の病院のイメージをお持ちの方もいらっしゃいますが、医療機関に“お任せ”にはできない時代ということですね。患者さんやご家族の側の意識の変化は感じられますか?
 
MSW和田:
最近は、事前に治療法や療養先の下調べを済ませてから、ご相談にいらっしゃる患者さんも増えていますね。
 
もちろん、インターネット上の情報だけで決めることが適切とは限らないのですが、ご自身やご家族のことを気にかけて、ご自身で調べて考えるというのは、とても前向きで良いことだと思います。
 
■あいらいふ:
最後に、和田さんの考えるあるべきMSW像とは、どのようなものでしょうか。
 
MSW和田:
地域医療連携は、患者さんとご家族にとって、将来の選択肢を増やす手段です。
 
どのような治療を受けるのか、退院後はどこで過ごすのか。病院に“お任せ”でいられない時代に、必要な情報と選択肢をお届けするのが、MSWの役割だと思っています。
 
患者さんとご家族には、ご自身で未来を選び取ることができたと実感してほしい。この仕事をしていると、お礼の言葉をいただく機会も多いのですが、感謝されすぎるとかえって「出すぎたかな?」と思うこともありますね。
 
やってもらった、決めてもらったと思われないようにサポートできた時が120点。確かにMSWには手伝ってもらったけれど、名前も覚えていない。そんな風に感じていただけることが、私にとっての理想です。
 
 
【プロフィール】
社会医療法人新青会 川口工業総合病院
患者サポートセンター
社会福祉士 和田

 
社会福祉の大学を卒業後、埼玉県内の療養型病院に就職。出産・子育てを機に、川口工業総合病院に転職し、現在は患者サポートセンターに勤務している。
 
===取材協力===
社会医療法人新青会 川口工業総合病院
埼玉県川口市青木1-18-15
https://www.kogyohsp.gr.jp/
 
取材・文/飯島順子
撮影/あいらいふ編集部
 
介護情報誌『あいらいふ』編集部
【誌名】『あいらいふ』vol.174202412-20251月号)
【概要】初めて老人ホームを探すご家族さまの施設選びのポイントをさまざまな切り口でわかりやすく解説。著名人に介護経験を語っていただくインタビュー記事のほか、人生やシニアライフを豊かにするためのさまざまな情報や話題を取り上げて掲載。
【発行部数】4万部
【配布場所】市区役所の高齢者介護担当窓口・社会福祉協議会・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・病院・薬局など1万か所

お問い合わせ

Contact us

お気軽にお問い合わせください。

採用情報

Recruit

ヘルスケア産業におけるリーディングカンパニーの
一員として共に成長してみませんか?