ヘルスケアの産業化に向けた課題と、
今取り組むべきこと。<後編>

2023915
EUCALIA IDENTITY

2019年にはFriendship Meetingでの基調講演、2021年にはコロナ禍のパートナー病院の取り組みをまとめた冊子「EUCALIA LIVE」にもご出演いただいた大阪大学大学院医学系研究科 名誉教授、大阪警察病院 院長の澤芳樹氏と、株式会社ユカリア 代表取締役の古川淳が、ユカリアのビジョン「ヘルスケアの産業化」、ミッション「変革を通じて医療・介護のあるべき姿を実現する」について語り合いました。

前編はこちら > https://eucalia.jp/es/ei011/


【ゲストの澤芳樹氏ご紹介】

大阪大学大学院医学系研究科 未来医療学寄附講座 特任教授
大阪大学大学院医学系研究科 名誉教授
大阪警察病院 院長

◎専門分野
外科学、胸部外科学、心臓血管外科学、心筋保護、心臓移植、心筋代謝、人工臓器、遺伝子治療、再生、医療、組織工学

◎受賞歴
1989
フンボルト財団奨学金/小澤賞
1997
日本医師会研究助成費
2000
テルモ科学振興財団助成金
2003
2回近畿循環器疾患助成金/三井住友生命助成金
2004
3回トヨタ共同研究技術
2006
日本バイオマテリアル学会賞
2009
文部科学大臣科学技術賞
2014
大阪大学総長顕彰彰
2015
日本再生医療学会賞/Circulation Journal Awardswards/大阪大学総長顕彰
2016
厚生労働大臣賞/日本医師会医学賞
2019
1回日本オープンイノベーション大賞 日本学術会議会長賞/日本医師会優功賞
2020
紫綬褒章/大阪大学栄誉教授

詳細なご経歴は澤教授のホームページをご覧ください > https://sawayoshiki.com/



ユカリアが考える5つの社会課題

古川:
我々は変革を続けることで「ヘルスケアの産業化」というビジョンが成し遂げられると考えていて、5つの変革テーマを定めています。


1
つ目は「医経分離」です。病院を経営面でマネージするチームと医療を提供するチームを分けることで、病院の価値や医療サービスの質を高めることができると考えています。

2
つ目は「病院運営の最適化」です。これまでお話ししたような現場の不効率・不合理を解消するような、いわゆる生産性の向上です。

3
つ目は「患者起点のVBHC(バリューベースドヘルスケア)の追求」です。国民皆保険ベースの医療提供に偏りすぎるのではなく、患者が望む医療提供をめざすことです。

4
つ目は「地域包括モデル」です。地域の居宅や介護施設と病院がシームレスにつながることで医療サービスの向上をめざします。

そして最後の5つ目が、今の4つを支える「現場に適したDX化」です。
これらのユカリアの考えに対して、澤教授のご意見をお聞かせください。


澤:
今、私は大阪警察病院の院長もしています。社会医療法人つまり民間病院の経営者として、完璧に腑に落ちました。

古川:
本当ですか!ありがとうございます。

澤:
はい、100%です。現場感にフィットしていて、的を得ている。もしかしたら国立大学の教授という立場だけだったらそう思わなかったかもしれませんが。

何よりもまず、変革テーマ①「医経分離」。経営と医療の運営、これは分けるべきなんです。実際にアメリカでこの仕組みがうまくいっていますから。大阪警察病院で私は基本的に経営の数字ばかり見ています。どの数字を見ればよいか、その数字を今後どのくらい伸ばすかもしくは削減するかなどを常に考えていますね。
病院でのスローガンは「全員経営者」ということ。各家庭が家計を管理するのと同じです。それぞれが自分の診療科のことを経営者視点で見ることができれば、より現場にフィットしたものとして最適化や効率化といった改革が進みます。例えばですが、私が来てから救急車の応需率が5060%だったものが80%ほどにまで上昇しました。

古川:
素晴らしいですね。そのような経営者視点が日本の民間病院に広まれば、活性化されて医療の質が上がり、国民の健康が保たれる、そんな仕組みが出来上がりますね。

澤:
大阪人はコストパフォーマンスを大事にしているんですよ(笑)。いかに少ない支出で最大限の利益を得るかは経営、つまりコスパの考え方ですよね。もちろん、医療で絶対に手を抜かないのは大前提です。警察病院では急性期の高度先進医療が求められるので、それこそ入院はできるだけ短くして、今は多くの後送病院とのアライアンス構築に尽力しています。若手開業医のグループと協力して、警察病院から直接在宅へ、という流れも作っています。

古川:
変革テーマ④「地域包括モデル」にも通じますね。医療の質が上がることで患者が喜び、働く人の収入も担保され、地域と病院の密着性も上がる。つまり病院、患者、働く人の「三方良し」の状態だと思います。

澤:
変革テーマ②「病院運営の最適化」にも取り組んでいます。先程の救急の話ですが、これまでファーストコールは事務が受けてその次に研修医に相談してという流れだったのを全部変えて、全て看護師が受けるようにしました。そうしたら受け入れが7分から3分に削減したんです。救急隊の間でも評判となり応需率があがったんです。

古川:
運営を最適化することで、社会医療法人としての使命がより果たされているのですね。



アントレプレナーシップな人材を1人でも多く

古川:
変革テーマ③「患者起点のVBHCの追求」
についてはどうでしょうか。

澤:
最近の日本のヘルスケア大企業はR&DResearch and Development:研究開発)よりもM&Aに注力していると感じます。一方中小企業でR&Dをがんばっているところも多くありますがグローバル感や戦略的なところが弱い。患者起点のニーズを育てられる人材が育っていないのが課題だと感じています。
私たちは今、アントレプレナーシップを多くの人に身につけてもらおうと「スタンフォードバイオデザイン」というスタンフォード大学が始めた医療機器のイノベーションリーダー人材育成プログラムを導入しています。医療従事者を含む4人チームが、3か月間かけて病院における200個のニーズを探し出します。そこからアイデアを精査していき、1年ほどかけて一つの医療機器を作り、最終的にベンチャーを作っています。このプログラムがものすごく大きな成果を出しています。日本で最初に取り組んだ所は遠隔リハを提供してM&Aするまで成功したんです。

古川:
なるほど。医療者と企業の方が一緒に病院や患者のニーズを探すのはすごい価値がある活動ですね。

澤:
その通りです。もちろん育っていけば大学の利益になりますし、さらに成長すればファンドからの出資の話も出てきます。他にも、製品化に近づくためのアドバイスが受けやすかったり、特許を調べるためのレギュレーションが教えてもらえる環境があったり。アメリカにはそのようなベンチャーが育つエコシステムがいくつも存在しているのです。



人材育成にもつながるスマートホスピタル

古川:
やはり発起人が1人だけでがんばるのは難しいですよね。まわりにさまざまなプロフェッショナルが集まり、応援して大きくした医療機器は、まさに変革テーマ⑤「現場に適したDX化」にも通じます。
以前、我々で研究したことがあるのですが、看護師の労働時間のうち約4割を「移動」に使っているという結果を見たときは衝撃でした。移動って、看護の仕事ではないですよね(笑)。

澤:
その通りですね。20251月に新しい病棟が建つのですが、そこで働く約1,800人の職員全員に、電子カルテを搭載したスマートフォンを持たせるよう計画しています。先駆的に取り組んだ病院があるのですが、そこでは看護師さんの歩く距離が18kmから3kmに減ったそうです。

古川:
すごいですね!ユカリアも現在、病院特化型MVNOMobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)として「ユカリアモバイル」を展開していまいます。
他にもベッドサイドに床頭台に「ユカリアタッチ」という情報端末を開発して、電子カルテデータが見られるようになっています。その場で計ったバイタルデータも連携されるので別途電子カルテに打ち込む作業がなくなります。患者のケア情報も共有されるのでナースステーションに端末がずらっとと並んだ世界は完全になくなる、そういう世界を目指しています。

澤:
いいですね。そのうちナースステーションが要らなくなって看護師は家でできる仕事になるかもしれませんね(笑)。新病棟ではスマートホスピタルを宣言していて、何をすべきかは正直手探り状態なのですが、これで随分病院の中は変わるはずだと期待しています。

古川:
ぜひそのあたりでも協力させてください。スマートホスピタルのような先進的な取り組みをしている病院には優秀な人材が集まると思います。人材育成の観点でも非常に興味深い取り組みだと感じました。



アイディアが生まれる環境、応援する仕組作りを

古川:
ユカリアの予防医療から介護、看取りまで幅広いヘルスケアバリューチェーンのなかで、アントレプレナーを社内外問わずに配して、その人を応援する仕組みを構築することで、さらに新しいビジネスチャンスを生みだすことで、「ヘルスケアの産業化」の実現に繋がる、と澤教授とお話しするなかで感じました。

澤:
あとはメタ的視点です。日本はヘジテーションとサラリーマン社会の中でアイディアを重視しない会社が多くないですか?それこそが日本の医療産業の行き詰りに繋がっているかと。イスラエルなんかはすごいですよね。軍事兵器を医療機器へと転用した事例などがあります。こうしてアメリカやイスラエルと比較すると、やはりどうしても日本はガラパゴスだと感じてしまいます。

古川:
今はまだ医療・介護の現場の人に産業化のような感覚が薄いと思うので、まずはユカリアのような企業が病院で働く人の意識改革をサポートができればと思います。そのうえで、アントレプレナーシップを持った人材育成から、産業化に向けた仕組みを構築してそれをしっかり回していくことが求められますね。

澤:
ユカリアのようなユニークな会社と我々のようなユニークな病院で一緒に取り組みましょう(笑)

古川:
お話しを聞き、「ヘルスケアの産業化」というビジョンの実現に向けて、5つの変革テーマに自信を持って取り組むことができます。
引き続き澤教授の知見であったり、アドバイス、ご指導をいただければ大変嬉しいです。
本日は貴重なお話をありがとうございました。

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