ヘルスケアの産業化と「三方良し」の実現へ DEIの推進がなぜ絶対不可欠なのか?<前編>

2024104
EUCALIA IDENTITY

2023年よりユカリアのDEIタスクフォースにご助力いただいてきた株式会社JobRainbow 代表取締役CEO 星賢人氏と、株式会社ユカリア 代表取締役社長の三沢英生が、企業DEIのあり方とユカリアのビジョン「ヘルスケアの産業化」、ミッション「変革を通じて医療・介護のあるべき姿を実現する」について語り合いました。

【ゲストの星賢人氏ご紹介】

(㈱Jobrainbowの会社情報より)自身もLGBTQ(ゲイ)の当事者として、月間60万人がアクセスするNo.1 ダイバーシティ採用広報サイト「ジョブレインボー」を立ち上げる。東京大学大学院情報学環教育部修了。Forbes 30 UNDER 30 in ASIA / JAPAN 選出。御茶の水美術専門学校 関係者評価委員。孫正義育英財団1期生。板橋区男女平等参画審議会委員。『LGBTの就活・転職の不安が解消する本(2020/3,翔泳社)』を出版。これまでに上場企業を中心とし、500社以上のダイバーシティによる経営改革を実施。

制度(ハード)と文化(ハート)の両輪を揃えてこそ

三沢:
最初に星さんにお会いしたのは、昨年(2023年)でした。長いお付き合いになってきましたね。ありがとうございます。
 
星:
こちらこそ、ありがとうございます。
 
三沢:
ユカリアの社外取締役である杉山文野さんから星さんをご紹介いただいたのが、DEIDiversity=多様性、Equity=公平性、Inclusion=包括性)への取り組みを強化していくきっかけでした。ご一緒できて、すごく嬉しいです。

星:
ありがとうございます。ユカリアさんが取り組みをスタートさせるタイミングでお声掛けいただきましたので、ユカリアさんのDEIの変遷を、これから何をしていくか、考えていただくフェーズから現在に至るまで見させていただいております。
 
三沢:
杉山文野さんに社外取になっていただいたのが、ひとつの象徴です。ユカリアはビジネスを通じてヘルスケアの社会課題を解決し、産業構造の転換まで見据えていますが、そのために自社組織構造のフラットさ、心理的安全性が大事になってくるわけです。
フラットな関係を築くのも、心理的な安全性を感じるのも「人」ですから、DEIに行き着きます。
ただ、LGBTQだけでなく、ジェンダー、障がい、多文化など、どこから始めていくべきか。もちろん満遍なくやっていきますが、文野さんの存在が心強く、よしLGBTQから始めようと。今年は障がいに関する取り組みを強化しているところで、DEIの実践はこの先もずっと続けてまいります。
 
星:
「ヘルスケアの産業化」をビジョンとして掲げておられるユカリアさんがDEIに取り組む意義は大きいので、しっかりサポートさせていただこうとまず思いました。
医療や介護の現場を担っておられる皆さんは自己犠牲の精神がとても強いのではないか。そうした皆さんが自分自身を大切にしていけることが、患者様であったり、ご利用者様であったりのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上や、自分らしさを受け入れてもらえる医療や介護の現場作りに繋がるのではないか。そのように考えると、ユカリアさんの取り組みのインパクトは巨大ですし、だからこそいっそう前のめりでお力添えさせていただいているのだと思います。
 
三沢:
DEI
の実践を始める最初の時点で、星さんからも、まず大事なのはトップコミットメントだとご教示いただきました。その点では古川(現ユカリア代表取締役会長。当時は代表取締役社長)も、私も強烈にコミットしておりますので、条件クリアです。
もうひとつ大事なのが、制度と文化の両輪です。
今回は星さんが代表取締役を務めておられる株式会社JobRainbow様に、ユカリア社内のパートナーシップ制度創設を支援していただきました。
DEI
実践の土壌となるカルチャーを醸成し、パートナーシップ制度のような制度やルール、つまり仕組みを整え、この両輪を揃える必要があります。
仕組みがさらなるカルチャーを醸成し、醸成されたカルチャーが仕組みに魂を入れていく。
制度がなければ、本当の意味でのカルチャーは醸成できないと思っているんです。
 
星:
DEI
の実践でいちばん時間がかかるのは、トップの承認です。
ユカリアさんの場合は、コミットのスピード感がそれこそ前代未聞で(笑)

三沢さんや古川さんからゴーサインを的確に出していただきましたので、非常に進めやすかった。何よりも現場のタスクフォースメンバーの皆さんのおかげで、急速に改革が進んでいったのではないかと思うんです。制度を変えるというテーマもすごく議論させていただいて、ユカリアさんの土台にもともとあるカルチャーとマッチしたものにしていかなければいけません。今回のパートナーシップ制度も、ある特定のマイノリティのための制度という見え方にはせず、あらゆる社員にフィットした制度にしていくのが大前提でした。ですから差別禁止も、特定の人を対象とするのではなく、あらゆる人が包摂されるインクルーシブな表現にしたり、パートナーシップ制度もより包摂的なかたちで申請しやすいものにしたりと、タスクフォースの皆さんとこだわって進めることができました。三沢さんのおっしゃるとおり、カルチャーを変えればハードが変わり、ハードが変わればハートが変わります。そのような好循環が、ユカリアさんではすごく回っていると思います。

三沢:
従来から制度的な不備があったわけではないですが、今回は事実婚や同性パートナーの家族が、福利厚生や手当や休暇などすべて、法律上の婚姻関係をベースとする家族と同じ扱いになる制度を設けました。相当進歩したと思います。
 
星:
今の日本社会でカップルとして認められていない、家族として認められていない人たちすべてを射程に含めて制度を作ったところが、すごくユカリアさんらしいと思います。
 
三沢:
人類の歴史を振り返ってみると、フランス革命だとか、アメリカの南北戦争だとか、権利獲得のためのさまざまな闘いを経て、人類は明らかに良い方向に進んできたと感じます。アメリカでは1964年に人種などに基づく差別を禁止する「公民権法」がアメリカで制定されています。そして1972年には教育機関による性差別を禁じる「タイトルナイン」という法律ができて、その効果が最も現れたのは学校スポーツの世界だと言われています。ですが、制度を設けるだけでよかったわけではなく、実はそのあと、多くの人が実質的な権利獲得のために闘ってきたわけです。

法律ができたからといって、それだけで物事が動くわけではなく、誰かが既存の壁を突破していかなければならない。われわれユカリアも、遅ればせながら、主体的に動いていくということです。最終的にはDEIを誰も気にしていない、そんな世界になっているのがいちばんいいわけです。
 
星:
ええ、おっしゃるとおりです。
 
三沢:
あらゆる差別を誰も気にしなくなっている。そんな世界を作っていくには、誰かが声を上げなければなりません。実際に声を上げて、引っ張ってこられた星さんたちには、共感しかありません。一緒に世界を変えていきたいと思います。
 
星:
三沢さんに、そのように思っていただいて、嬉しいです。

海外にはDEIを事業に繋げている先進的なモデルも

三沢:
DEI
の実践が当たり前の時代をこれから迎えると確信していますが、星さんは日本の企業が抱えているDEIの課題をどのように捉えておられますか。
 
星:
第一に、何から始めればいいのか、わからない。これがいちばんの課題ではないかと思います。これまでのDEIの一丁目一番地はジェンダーギャップで、日本では「女性活躍」と言われる分野です。女性の働き方を改善し、男女の賃金格差を是正して、いかに女性管理職を増やしていくか――。でも女性活躍の取り組みが進んでくると、次は何を? と皆さん困ってしまうんですね。DEIの取り組みが「女性活躍」に偏り、男性社員が「自分たちには無関係だよね」と自分事にできていなかったのも、日本の企業に共通している課題です。日本の社会には、家族を養うのは男性という考え方がまだ残っているので、社会的な重圧を男性が抱えやすいという特性もあるように思います。
DEI
とは、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンの略ですから、根底にあるのは特定の属性だけでなく、あらゆる多様性を受容して、活躍してほしいという考え方なんです。ジェンダーギャップを解消できれば、男女が負担を分散でき、男性にとっても働きやすく、幸せを追求しやすい社会になっていく。でも、その根底の考え方が共有されないまま、女性だけの取り組みとなり、多様性には広げられなくなっています。ダイバーシティは特定のマイノリティのための取り組みだとする認識のままでは、ユカリアさんのように同性パートナーシップ制度を事実婚まで広げて、いろんな家族のかたち、ファミリーシップまで広げていこうという動きにはなりにくいですね。
もうひとつ、先ほど「ハードとハート」の話になりましたが、日本にはハードから手をつけたがる企業様が多いです。たとえばオールジェンダーのお手洗いを増やすというように、施設面にまずお金をかけますが、「このトイレを使用したら、自分もLGBTQと思われてしまうかも」などと社員が不安を感じたままではハードは使われにくい。ハートの部分を変えるという意識改革にも、大きな課題があると強く感じています。
 
三沢:
ハードとハートの両輪ですね。星さんたちと一緒にパートナーシップ制度を作らせていただきましたが、「ルール・制度・仕組み」の構築と「文化・カルチャー」の醸成をグルグル回して、正の循環にする。ハートがなければ、ハードは絵に描いた餅のようなもので、魂が吹き込まれません。ちなみにいま思い返してみると、パートナーシップ制度を作ったあの3か月は、割と大変でしたよね(笑)。

星:
いろんなステークホルダーがいらして、いろんな意見がありますので。そこからユカリアさんらしさを取り出していく作業が、すごく大変だったというのはありますね。
 
三沢:
DEI
推進に関する海外の先進的な事例があれば、ご紹介いただけますか。
 
星:
社内のハートを変えた、素敵な取り組みについてお話させてください。私たちJobRainbowがテーマのひとつとして掲げているのは、インターセクショナリティという考え方です。この言葉には「交差する」という意味があります。

日本におけるダイバーシティの多くの取り組みは、女性である、障がい者である、外国籍である、LGBTQである、育児や介護をしている人であるというように、ひとつのカテゴリーにひとりの人が結びつくという考え方に基づいています。これが海外の先進的な企業であれば、カテゴリーは本当は交差していて、インターセクショナルな人が世の中には多いと認識が変わります。金融情報を扱っているある企業には、障がいのある方たち、LGBTQの方たちといったコミュニティがいっぱいあって、障がいがあり、かつLGBTQの社員の話を聞くセッションを開くなど、コミュニティ同士でコラボレーションしています。働きながら障がいのあるお子さんを育てていると負担はより大きくなるので、じゃあリモートワークを増やしたほうがいいのかというようにインターセクショナルの視点を取り入れて、どうすればそのような方々を積極的に社内で受け入れ、サポートしていけるのか、試行錯誤している会社は、すごく先進的だと感じます。
 
三沢:
それは欧米の企業ですか?
 
星:
そうです。先進的な企業は、アメリカやヨーロッパに多いですね。
 
三沢:
それが日本だと?
 
星:
障がいのある人の話を聞きましょう、ワーキングペアレンツの話を聞きましょうというように、交差しない取り組みになりがちです。
他の先進的な例としては、DEIを事業に繋げているケースもあります。たとえば海外のグローバル企業による、旅行の検索サービスです。旅先で嫌な思いをしなくていいように、チェック項目が「旅先のホテルはバリアフリーです」「英語以外の言語に対応しています」「LGBTQフレンドリーです」などと設けられているので、楽しく現地のカルチャーやコミュニティに触れることができるわけです。社内にインターセクショナルなDEIの環境を作る取り組みを、事業に転化させている企業が、海外には非常に多いと思います。
 
三沢:
とても面白いお話ですね。ユカリアでもLGBTQに関しては議論や取り組みをかなり深掘りできて、会社がなんかいいことをやっているよねといった捉え方ではなく、社員が相当自分事にできていると思います。今年は障がいです。さらにジェンダーや、働き方や、文化など、満遍なくやっていかなければなりませんが、インターセクショナリティのお話を聞きながら、その次のステージもあるのだろうと、明確にインプットできました。グローバルスタンダードで何がいちばんいいか、星さんたちのアドバイスやサポートをいただきながら常に探求して、先進的な取り組みをしっかりと進めていきますので、引き続きいろいろ教えてください。

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