EUCALIA IDENTITY#03 ヘルスケアの産業化と「三方良し」の実現へ DEIの推進がなぜ絶対不可欠なのか?<後編>

2024104
EUCALIA IDENTITY

2023年よりユカリアのDEIタスクフォースにご助力いただいてきた株式会社JobRainbow 代表取締役CEO 星賢人氏と、株式会社ユカリア 代表取締役社長の三沢英生が、企業DEIのあり方とユカリアのビジョン「ヘルスケアの産業化」、ミッション「変革を通じて医療・介護のあるべき姿を実現する」について語り合いました。

【ゲストの星賢人氏ご紹介】

(㈱Jobrainbowの会社情報より)自身もLGBTQ(ゲイ)の当事者として、月間60万人がアクセスするNo.1 ダイバーシティ採用広報サイト「ジョブレインボー」を立ち上げる。東京大学大学院情報学環教育部修了。Forbes 30 UNDER 30 in ASIA / JAPAN 選出。御茶の水美術専門学校 関係者評価委員。孫正義育英財団1期生。板橋区男女平等参画審議会委員。『LGBTの就活・転職の不安が解消する本(2020/3,翔泳社)』を出版。これまでに上場企業を中心とし、500社以上のダイバーシティによる経営改革を実施。

DEIを推進するのは「攻めの経営」を実践するため

三沢:
ユカリアが掲げているのは、「ヘルスケアの産業化」というビジョンであり、「変革を通じて医療・介護のあるべき姿を実現する」というミッションです。背景にあるのが日本の超高齢社会と社会保障費の増大で、これは途轍もなく大きな社会課題と化しています。ヘルスケア業界に足を踏み入れて4年以上が経つ私も、この国がぶっ壊れてしまうのではないかという強烈な危機感を覚え、自分自身の内側から突き上げてくる使命感に突き動かされているわけです。

必要なのは「三方良し」の世界観です。①病院や介護施設の経営を安定させて地域の拠り所となり、②そこで働く医療従事者や介護従事者のウェルビーイングや所得の向上に繋げます。そこから③患者や要介護者といったサービス受容者に対するサービスの質やレベルを高めて、それぞれにおいてQOLの持続的な改善を行います。お金が回るようになれば、医療機関や介護施設が永続性を担保でき、地域に貢献しつづけていけるという世界観なんです。
これを日本中で実現していこうとしているわけですが、思うようには進みません。既得権益の抵抗や、縦割りの社会構造や、法令による規制があるからです。われわれはこの壁を、ビジネスを通じて突破していくつもりです。
大きな課題は5つに集約できます。たとえば日本には8000ぐらいの病院がありますが、その7割超が赤字なんです。

星:
(驚きながら)そうなんですね。

三沢:
5
つの課題に対応しているのが5つの変革テーマです。「医経分離」はそのひとつで、医療と経営の分離によって、現状維持ではなく発展性・持続性のある医療法人経営を実現します。5つの課題を解決できれば、未病から終末期まできわめて幅広いユカリアのバリューチェーンのすべてで「三方良し」の世界観を実現できますし、産業構造の転換により日本を豊かにできると考えています。ユカリアのビジネス拡大と、社会価値の創造は、完全に一致しています。こうした変革を進めていくうえでいちばん大きな課題が何かというと、組織構造のフラット化なんですよ。

星:
そうなんですね。

三沢:
ユカリア自身や仲間の医療法人は、この変革を大きく推進していますが、医師を頂点とするピラミッド型の組織が日本の医療機関にはまだ多いです。ピラミッドのヒエラルキーによる上意下達ではなく、看護師、薬剤師、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)、事務職、ケアマネージャー、介護士など、役割や責任は違えど、みんなフラットに、議論を通じて全体最適化するほうが良いに決まっています。ユカリアの社内では「心理的安全性の醸成」や「球体型組織」など、いろんな表現に置き換わりもしますが、いずれにしても不可欠なのは「フラットな組織」です。
ちなみに私は東京大学アメフト部の監督でもありますが、大学の体育会に星さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?

星:
厳しくて、ピラミッド型の、先輩が絶対というイメージがあります。

三沢:
ところが東大アメフト部では、監督、コーチ、選手、スタッフの全員が対等な関係にあり、フラットな組織構造のなかで切磋琢磨しています。ピラミッド構造の典型例である大学の体育会ですら、自己変革できたわけです。旧態依然としているヘルスケア業界でも、これをやっていきましょうと、ユカリアは呼びかけているんです。
ユカリアのビジネスは現場を起点としています。最近は「人的資本経営」という言葉でよく語られますが、病院にしても、介護施設にしても、人に寄り添う現場ですから、寄り添う人が最も大事です。ユカリアがDEIを重視しているのは、フラット化の取り組みと完全に軌を一にしているからなんです。全員に公正な機会を提供して、各自の個性や能力や専門性を生かしながら、切磋琢磨していきます。DEIの推進が、社会価値の創造や、社会的インパクトに繋がります。この世界観こそ、組織を強くしていくと、私は確信し公言しています。効率性を重視して、同じものを大量生産する高度成長期の日本であれば、DEIという価値観の追求は逆効果だったかもしれません。しかし、これだけ社会が多様化しているのに、われわれの組織がフラットでなく、取り組みが画一的なら、変革やイノベーションは絶対に起こせず、ただただ衰退していくだけです。

星:
なるほど。

三沢:
加えてVUCAVolatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)の時代を迎えています。価値観ですら、相対的で、常に変わる。そんな世界が現実になっているわけです。ロバスト(Robust=強靭)でない組織は、世の中が変わった瞬間に淘汰されます。流行りだからとか、そんな詰まらない話はしていません。DEIを推進するのは、攻めの経営を実践するためで、さもなければ競争に負けますよという、はるかに深く、本質的な話です。DEIは効率性には資さないが、企業経営にとって極めて効果的です。ユカリアが掲げるビジョン・ミッション、三方良しの世界観を実現し、日本を豊かな国にするためには、DEI推進が不可欠だという話です。

星:
抽象度の高い共通した理論を、経営の世界や、医療や介護の世界、スポーツの世界に落とし込む三沢さんの頭のなかが可視化されていて、とても面白いお話だと思いました。組織のフラット化によるレバレッジを効かせて、テコの原理でヘルスケア業界の課題を解決していけるというお話には、すごく共感を覚えます。「これからはDEIだ」と国も推奨しているから、とりあえずやっておこう。そのような取り組み方では本質から離れていくと、私も大きな課題感を持っています。

日本の企業では、社内でパワーを持っている人にプライベートでも完全に服従してしまうケースが見受けられます。役職に基づく権限と個人の尊厳をきちんと分けてDEIを進めていくことが、これからの日本の多くの会社さんにとって大事なポイントとなるはずです。
スポーツの世界では、無条件で男性や指導者にパワーが集まる一方で、女性である、障がいがある、LGBTQであるといったマイノリティ性を持っていると、相対的にパワーも弱まるようです。ですがDEIの取り組みをきちんと進めていけば、意識が変わっていくでしょう。誰もが大切なメンバーであって、役割が違っているだけという認識に立ち戻るために、いったんありのままの人間に戻るという考え方がDEIにはあると思います。
医療と経営を分離させて、経営やマネジメントはそれが上手な方に任せ、お医者様は適切な医療を患者様に届けられるように体制を確立していく取り組みが、ヘルスケアの産業化に繋がっていく。そのためのフラット化であり、DEIなんだという三沢さんのお話に、ハッとさせられました。時代の大きな流れを変えていこうと、ユカリアさんは取り組んでいらっしゃるのだなと。

三沢:
人類の歴史の普遍的な方向性だと思います。ジェンダーギャップの問題も、50年前や100年前と比べれば減っていると思います。もしかすると20年後、30年後、50年後には違う課題になっているのかもしれません。差別というのは、ありとあらゆるところに潜んでいますから。それでも人類の歴史のなかで、一歩一歩良くなってきているという確信はあります。その一翼を担いたいという思いで推進しています。

星:
日本のいろんな会社様とお話していると、DEIの取り組みを通して間違った意味でのフラットや、間違った意味での心理的安全性が社内に醸成されてしまい、部下に言いたいことが言えなくなったり、ハラスメントの疑いをかけられたりと、コミュニケーションが取りにくくなっていることにも気づかされます。本来のDEIはフラットと相反するものでなく、両立していけるものなのですが……。

三沢:
おっしゃる通りで、DEIの推進と組織のフラット化は同じベクトルを向いています。フラット化され、エクイティが担保された組織において、心理的安全性にはむしろ厳しさが伴います。たとえば社長と新入社員の間には経験や知識の差があるでしょう。それでも同じ空間にいる全員が何でも自由に話せて、そのすべてを受容する前提ですから、付加価値のある発言や発信が求められます。的外れな話ばかりをしていると評価は下がります。フラット化される前は、黙っておけばよかったんです。フラット化され、心理的安全性が高い職場こそ、むしろ緊張感があり、生産性も高まると私は考えているんです。

星:
まったく同感です。私はゲイですが、ゲイだから優しくしてあげようと接してこられたら、逆に失礼だと感じます。少し前までのDEIは、これこれこういう特性を持っている人だから優しくしてあげようとアプローチしてくる世界観だったように思います。でも、これからのDEIは、ハードの面、制度の部分を公平になるように整えて、ひとりの人として属性やバックグラウンドのマイノリティ性を言い訳にせず、それぞれ活躍していきましょうと、対等な立場で言える世界観になっていくはずです。適切な厳しさを心理的安全性と両立させなければ、生ぬるいだけで、本気で社会を変えていく取り組みにはできないでしょう。

三沢:
優しさの意味を履き違えていますよね。私はユカリアを、愛と利他の精神、感謝と温もりで満ち溢れた組織にしていこうと呼びかけています。お互いが助け合い、支え合いながら、切磋琢磨する。切磋琢磨というコインを裏返すと、そこには愛とか利他の精神がある。個人的な話をさせてもらうと、私は4人家族なんですが、子どものひとりと私はADHD(注意欠陥多動性障がい)だと診断されています。私自身はそれを個性だと捉えているので、妙な扱われ方をすると違和感を覚えてしまいます。DEIの推進では、ジェンダーやLGBTQが割とクローズアップされがちですが、実は誰にでもマイノリティ性はあるんです。全員がDEIを自分事にして、当事者の意識で推進していくことが大事なんだと、星さんとお話していてさらに確信できました。

進化した世界を見据え、徹底的に発信していこう

星:
DEI
は重力のようなもので、物理法則と同じように人類の歴史に作用していると思います。一例を挙げると、女性が初めてオリンピックに参加できたのは、1900年のパリ大会だったそうです。2024年のパリ大会には男女同じ人数が参加しているので、形としては完全な平等が達成できたところです。これからの社会では、もっともっと多様な人たちが活躍できると思います。
DEI
にはテクノロジーと一緒に進化してきた側面もあります。これまではマスメディアを通して社会に発信されてきたマスメディアの価値観を常識と受け取っていたのが、SNSの発達により個人が自分の意見を発信できる時代になりました。私が子どもの頃は、いまで言うLGBTQのタレントさんがオネエとかオカマと呼ばれるなど侮辱的な扱われ方をしていて、私はクラスメイトから「お前、〇〇のモノマネしろよ」などといじめられていたものです。でも、SNSが発達してからは、私のような人たちも「自分もここにいるんだよ。こんなふうに感じているんだよ」と、ひとりの発信者として伝えられるようになり、多様性の概念が爆発的に社会で広がったと思います。
 
三沢:
本当ですね。素晴らしい!
 
星:
これからは世の中にAI(人工知能)が浸透していったり、DX(テジタルトランスフォーメーション)化が進んでいったりするなかで、すべての患者様を同質的に捉えて、同じ医療を施すのではなく、一人ひとりに合った医療サービスを提供し、予防から終末期までサポートしていくのが、ユカリアさんの考えていらっしゃることだと思います。そうしたきめ細やかな個別対応は、テクノロジーの発展に伴い、どんどん加速していくでしょう。
 
三沢:
おっしゃるとおりです。
 
星:
ヘルスケアに限らず、いろんな産業が、一人ひとりにフィットするように変わっていくでしょう。実際に一人ひとり個別に見ていくと、みんな違っているじゃないですか。
さきほど三沢さんがご自身の話をしてくださいましたが、口外しないだけで、本当はみんな凸凹で、違いが必ずあると思います。一人ひとり違っているからこそ、ヘルスケアの領域であれば、自分自身の病状をうまく伝えられない方もいるでしょう。セクシャルヘルス的な部分で、どのような経路で感染した可能性があるか、病院に言えず、適切な治療を受けられないケースがあります。そもそも病院に行くのが恥ずかしかったり、こわくて行けなかったり、そういう人がいるんです。ユカリアさんがDEIに取り組むことで、お取引先の病院やお医者様にもDEIの観点を持っていただくようになれば、患者さんも相談しやすくなりますし、よりQOLの高い医療を受けられるようになるでしょう。ユカリアさんの取り組みには、心から期待して、応援しています。
 
三沢:
テクノロジーは使い方次第ですよね。スポーツの世界でいろんなハラスメントが明るみに出たのも、その多くはSNSを通した発信がきっかけでした。星さんの発言も、表に出るから、共感を呼ぶわけです。共感の波紋がグワーッと広がって、一気に改革が進む場合もあります。

本日はDEIはもちろん、組織のフラット化や、心理的安全性の話にもなりました。私個人は、このような話をしなくていい世界に変えていきたいと思っています。そのためには、徹底的に発信していかなければなりません。私には、かつて勤めていた外資系金融機関で、リクルーティングの日本の責任者を務めていた時期があります。実は当時、本国(アメリカ)から、今年は男女同じ人数を採用しろと言われた年がありました。ダイバーシティがものすごい勢いで、アメリカで広がっていた2000年代前半の話です。当時、採用試験を受けにくる人の割合は、8273で男性がはるかに多かったわけですが、それでも今年は男女同じ人数を採用しろと。あれは完全にパワープレーでしたし、逆差別だと言われましたが、これぐらい極端に振らないと、カルチャーは変わりません。
DEI
推進とわざわざ叫ぶ必要のない進化した世界へ変えていくために、いまこそ強く発信する必要があります。われわれユカリアは星さんたちのようなファーストペンギンではないですが、DEIの先進的な取り組みを続けて、多少でもポジティブな影響を及ぼしたい。自分は中立だからシーソーの真ん中で何もしないというのは違っていて、いったんちょっと極端に振らなければ社会や文化は変わりません。

星:
心強いお言葉です。現状の延長線上だけの取り組みですと、変化にものすごく時間がかかってしまいます。中立でいるのは素敵にも見えますが、結局はマジョリティの側に立つことにほかならないと思います。ユカリアさんが課題解決型の取り組みをなさっているのは本当に心強く、たくさんの方に伝えていきたいと思います。
 
三沢:
カルチャーを変える。変革を起こす。イノベーションを起こす。そのためには力が必要ですし、場合によっては強引さも必要だと思います。素晴らしい世界を作っていくために、星さんたちともぜひ助け合いながら、切磋琢磨できる関係を築いていきたいです。本日はありがとうございました。
 
星:
こちらこそ、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

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