【TOP対談~変革者に聞く】#02 信仰にも通じる“癒し”の力は、これからの医療のキーワード。<後編>
1300年の歴史で達成者はわずか2人。
この世で最も過酷な荒業とされる「千日回峰行」を満行し、その後「食べる・飲む・寝る・横になる」の4つを禁じて9日間、真言を唱え続けるという「四無行」も満行された、塩沼亮潤大阿闍梨と、株式会社キャピタルメディカ代表取締役の古川淳が、これからの医療の在り方について語り合いました。
※※※<前編>はこちら※※※
詳細なご経歴は慈眼寺のホームページをご覧ください > http://www.jigenji-sendai.com/
「人」が変われば「病院」が変わる
古川:
大安心(だいあんじん)、心のケア、癒し。そういったものをより確実に提供できる。そんな医療、病院経営をこれから目指していきたいところですが、どんな啓蒙が必要だと思われますか。
患者さんに大安心(だいあんじん)を
塩沼:
結局は人がやることですからね。働く「人」の心が変わればとおのずと「病院」は変わっていくと思います。大変な作業のようにも思えますが、ちょっとしたきっかけでも人は変われるものです。
慈眼寺には、経験が長い若手スタッフと、経験が浅い年長者のスタッフがいます。普段はフランクに話し合う仲ですが、時折会話のなかでギスギスしてしまうことがありました。そこで2人に敬語で話すよう指示すると、それだけですぐにお寺の雰囲気が本当に一変しまして。話し言葉を変えただけですが、効果は絶大でしたね。組織をよい方向に導くのに、難しい理論や仕組みは不要なのかもしれないと思えた出来事でした。
古川:
敬語を使うことは、礼儀とか形式的なものではなく、まさに相手を敬う気持ちの表れですよね。それが伝わるとお互い気持ちよくいられるし、それが雰囲気となって周囲にも伝わる、といったところでしょうか。
塩沼:
おっしゃる通りだと思いますね。あとはお布施の話も参考になると思います。お布施は、神社仏閣に金品やお供え物を持っていくことだけではありません。和顔施(わがんせ)と言って、和やかな顔を見せることも立派なお布施です。やさしい言葉を投げかけることを意味する愛護施(あいごせ)もそのひとつ。
医療における治療も、お布施も「施す」ことですよね。「笑顔で、敬語を使ったやさしい言葉を施す」これを基本とするだけでも、病院は変わっていけるのではないでしょうか。
古川:
素晴らしいアドバイスをありがとうございます。病院には、技術レベルは高いのに外来では人気がない医師、もしくは技術はそこそこだけど外来で人気がある医師もいて。どちらがいいという話ではないのですが、多くの患者は後者を選ぶ傾向があります。もしかすると、多くの患者は医師に技術的なものはそこまで高い水準を求めていないのかもしれませんね。
塩沼:
技術と人間性のバランスが大切だとは思いますが、実はそれ、お寺も一緒です。日本で曹洞宗を開いた道元禅師は、勉強も修行も懸命に取り組んだ人でしたが、あまり人気がなかった。あとを継いだ瑩山禅師は「お寺の場所がよくない」と、総本山を能登から横浜に移して曹洞宗を爆発的に広めました。よりわかりやすく伝えていくことも大事なことのひとつでしょうね。
古川:
塩沼さんがラジオなどを通じて色々なことを「伝えていく」ことに力をいれているのはそれが理由ですね。
とらわれない生き方が一番幸せ!
塩沼:
究極的には「伝える」でなく「伝わる」がより重要だと思います。私はこれまで修行もそうですし、その経験を語る講演などで「伝える」ことに必死でした。「いいことを言わなきゃ」と頭のどこかで考えていて。それが最近は、こちらが楽しんでいればそのいい雰囲気が勝手に「伝わる」ことに気づきました。よく慈眼寺に来てくれる人から「あなたの顔を見るだけで安心する」と言われる機会がありまして。先ほどお話しした町医者の先生のように、自然と慕ってもらえるような存在になれたことが一番大きいと思います。
古川:
それはもうコミュニケーションとしては究極ですね。
塩沼:
「伝える」だとどうしても作為的です。「あのお坊さん、楽しそうだな」となれば、勝手に真似をしてくれる人はいますからね。
古川:
「伝わる」を身につけるのは、さすがに難しいですよね。
塩沼:
難しいとは思いますが、あえて簡単に言えば、「幸せに生きる」ということだと思います。そこで大切なのは、あらゆるものに執着しない、とらわれないことです。例えばお金。人は必ず死にますし、あの世には1円たりとも持っていけないものですから。与えられた環境で今日一日を幸せに過ごせたなら、それでいい。そう考えるだけで、毎日楽しいですよ。
古川:
でも執着で思い悩む人は多いですよね。私を含め(笑)。財産もそう、家族や子どもなんかも、全部執着ですよね。
塩沼:
私は慈眼寺を一代で終わりにするつもりです。それに墓は作りませんし、お葬式をするつもりもありません。その代わり私が死んだら、たくさんの人に色柄ものの服を着て集まってもらって、シェフを呼んで音楽をかけて、盛大なパーティーを開きたいですね。骨は、ハワイの海に散骨したい。きれいな海を漂いながら自然へと還っていく。素敵だと思いませんか。
古川:
……すごすぎます(笑)。そして、確かに楽しそうな感じが伝わってきますね。とらわれない生き方、憧れます。
塩沼:
でも、人間たるもの、やっぱりいろいろと「欲しい」ですよね(笑)。そこはもうそれぞれが折り合いをつけていくしかない。自分で自分の心を諭していくことが、人としての信用にもつながると思います。これはもう医療従事者の方だけでなく、あらゆる人におすすめしたい生き方です。
古川:
私も「とらわれない生き方」を推奨していこうと思います(笑)。今日のお話をお聞きして、病院に対しては大安心(だいあんじん)や癒しを与えることの重要性を伝えていきたいと思いました。ただ一朝一夕に変わることはできないとも思うので、この考え方を少しずつ啓蒙していき、育てていきたいと思います。
塩沼亮潤大阿闍梨、本日は貴重なお話をありがとうございました。