TOP対談~変革者に聞く】#04
医療・介護現場におけるDEI実践への道しるべ。<後編>

2023821
TOP対談〜変革者に聞く

自身がトランスジェンダーであり、DEIDiversity=ダイバーシティ・多様性、 Equity=エクイティ・公平性、 Inclusion=インクルージョン・包括性)を主とした幅広い活動を展開する杉山文野氏と、株式会社ユカリア代表取締役の古川淳が、企業および医療・介護業界におけるDEIについて語り合いました。

【ゲストの杉山文野氏ご紹介】

1981年東京都新宿区生まれ。フェンシング元女子日本代表。
早稲田大学大学院でのジェンダーやセクシュアリティを中心とした研究、およびトランスジェンダーである自身の体験を軸に、NPO法人の運営や講演会、著書の出版などを通じて幅広くDEIの周知活動を展開。2023年に株式会社ユカリア社外取締役に就任。

医療、介護業界のDEIの現状

古川:
ユカリアは病院経営支援及び高齢者施設運営を中心に、ヘルスケアバリューチェーンにおいて広範囲な事業を展開しています。DEIにおける医療・介護の現場をどう感じていますか。

杉山:
専門外なので逆にお聞きしたいのですが、まず業界内でDEIの話が出る機会はありますか。

古川:
……ないですね。

杉山:
それが現状なのだと思います。

古川:
そう返ってくることも予想できました……。医療・介護にDEIは必要だと理解しつつも、知見もノウハウも有していません。DEIを実践することでユカリアが作るヘルスケアの世界感が広がると期待しているのですが、何から取り組んでいくとよいでしょうか?

杉山:
まずは現状を知ることからだと思います。手法のひとつとして、DEI関連のアワードへの応募があります。受賞をめざすという話ではありません。応募にはチェック項目がありますから、それを見るだけでも自社でできていること、できていないことが明確になります。

古川:
確かにその通りですね。ちなみに例えばどんな項目があるのでしょうか。

杉山:
例えば福利厚生など社内の制度です。結婚祝い金や慶弔休暇など、パートナーが同性の場合も適用できるようになっているか、などはわかりやすいですね。あとは相談窓口の設置など、
当事者からすると「言わない」と「言えない」では心理的安全性が変わりますから。
LGBTQ
以外にも、外国にルーツを持つ方が増えるなか、多言語表記がどこまでできているか、などもあると思います。
最近の求職者、特に若い世代は企業がしっかりDEIに取り組んでいるかをよく見ています。
企業を比べたときに、採用条件が同じであれば、自分が差別偏見に晒されないような企業で働きたいと思うはずです。

古川:
ユカリアには外国にルーツを持つ方も在籍していますが、ケアはほとんどできていないと今気付きました。ただそうやって認識や理解はしたとしても、実際に実行できるか。そこのハードルを越えていくことが、DEIで今最も求められている部分だと感じます。

杉山:
ぜひ実現していただきたいです。DEIの実践においては、実はトップのコミットメントが非常に重要な要素となっています。
現場は動きたいのに、トップが首を縦に振らないケースも実際に多く存在します。その点、ユカリアさんの場合は安心しています。より言いにくいことも言い合える関係性を築きながら、どんどん進めていければと思います。

古川:
ユカリアの社員が全員DEIを実践している、という体制ができれば、病院や介護の現場は大きく変わりますし、患者さん側の安心感も違ってくると思います。そんな目標をイメージすることができました。
今はまだまだですがDEIの取り組みは、ユカリアの強みに変わると思います。

杉山:
もうひとつ、これはユカリアさんに限った話ではないですのが、DEI関連の活動を実施したら、ぜひ世間に伝えてほしいです。
まさにこの対談もそのひとつです。「わざわざ伝えるほどの活動をしていないから」というのではなく、わざわざ言わなくてもよい社会にするために、まだまだ気付いていない人に伝えてほしいです。
何か初めての取り組みを行うときは失敗することもあると思います。でも、失敗があるからこそ学びがある、是非失敗を恐れずに様々なチャレンジをしてほしいと思います。
僕自身も当事者の戒めとしては、仮に新しい取り組みで失敗があっても、揚げ足を取って炎上させたりせず、適切に正すことを意識する。そうしてお互い歩み寄りながら改善していくことが大事です。何よりも実践することが大切ですから。


病院、高齢者施設を心理的安全性の高い場所に変える

古川:
ユカリアのパートナー病院でDEIに取り組もうとする場合のハードルって何かありますか?病院は、ある意味で男性社会の極みです。しかも勤務するスタッフは女性が約8割という、歪みが噴出している場所のようにも感じます。

杉山:
「知らない」ことがすべてを妨げますから、とにかく知ってもらう機会をつくっていくことからだと思います。それと、基本的にお医者さんはマイノリティーだろうが誰であろうが、目の前の人を治したい、命を救いたいという人だと思います。体制や制度が整っていないために診療機会が排除されている人が1人でもいるとしたら、全員が悲しいですよね。患者さんであれば誰もが安心して来られる病院。職員であれば誰もが安心して自分らしく働ける施設。そんな2つの側面を意識して、誰もが幸せになれる場所をめざして実践していってほしいと思っています。

古川:
この状況を転換するのは難しく思う反面、DEIの取り組みを進めて日本の病院や高齢者施設が心理的安全性の高い施設に変わっていくことは、職員や患者、入居者全てがハッピー、ひいては日本にとってハッピーなことだと思います。
ダメ出しされることばかりが今から目に浮かびますが……ぜひ切磋琢磨で文野さんと一緒にその世界感を実現していきましょう。
本日は貴重なお話をありがとうございました。



対談を終えて

後日、ユカリアでは全社員に向けて杉山さんによるDEIに関する講演を行ない、古川代表が改めてDEIトップコミットメントを表明しました。さらに、DEIを社内で推進するタスクフォースが編成され、本格的にDEIに取り組むことになりました。

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