虎の巻その7
医療法の改正と歴史について
             
                ※2020年10月27日に公開した記事を、2025年10月15日に一部更新しました
はじめに
こんにちは。虎兄(とらにぃ)です。病院経営コラム「病院経営~虎の巻~」。
今回は医療法についてです。
「虎の巻その6 病院事業5つの特性(下)」、病院の特性に「制約の存在と制約の変化」があると紹介しました。 
その制約の大元となる法律の1つが「医療法」です。
「医療法」は「医師法」「歯科医師法」「保健師助産師看護師法」などと並び、医療の提供体制を定める法律として日本の衛生法規の根幹をなすものであると同時に、医業を行うことのできる施設としての病院、診療所などのあり方について規定する、医療施設の根本に関する法規です。 
今回は医療法の概要、そして2025年までに行われた主要な改正の流れについて、わかりやすく解説します。
医療法の目的と主な内容
医療法の目的は、簡潔に説明すると、「医療を受ける患者の利益の保護と、良質で適切な医療の効率的な提供体制の確保を図ることで、国民の健康の保持に寄与すること」ということになります。 
主な内容は以下の通りです。
① 総則(医療提供の概念、病院・診療所など) 
② 医療に関する選択の支援など 
③ 医療の安全の確保 
④ 病院、診療所及び助産師の開設・管理・監督など 
⑤ 医療提供体制の確保 
⑥ 医療法人制度
これらの規定により、私たちが日々享受している医療サービスの質と安全性が担保され、同時に国全体の医療提供体制が適切に維持されているのです。 
医療法の改正の歴史
医療法は1948年に制定され、以来70年以上が経過しています。ここでは医療提供体制の大きな転換点となった、主要な制度改正を中心に振り返りますが、まずは1986年の改正から2024年の改正までを次のとおり整理しました。
なお、医療法改正の個別の内容は、数年にわたって段階的に施行されたり、準備期間が設けられたりすることが多く、改正年と一致しないことは珍しくありません。下記に記載した改正年と実際の施行年がややずれるケースがありますので、ご了承ください。
第1次改正(公布1985年、施行1986年)
・医療計画制度の導入 
・病院病床数の総量規制 
・医療資源の効率的活用 
・医療機関の機能分担と連携の促進 
・医療圏内の必要病床数の制限
第1次改正においては、「医療計画制度の導入」と「病院病床数の総量規制」が始まりました。1970年から1980年代にかけて日本では医療機関が急増し、特に都市部では病床の過剰供給が問題とされました。一方で地方では医療資源の不足が深刻化するという、地域間格差が顕在化していた時期でした。
医療計画においては、医療圏ごとに必要病床数を定めて許可制とすることで、一定の猶予期間を経た後に必要病床数を超える新たな病院・病床の設置を排除する仕組みとなりました。医療資源の効率的活用や医療機関の機能分担と連携を促進することで、医療圏内の病床数を適正に維持しようという狙いがありました。
第2次改正(公布1992年、施行1993年)
・特定機能病院及び療養型病床群の制度化 
・看護と介護を明確にし、医療の類型化 
・在宅医療の推進
第2次改正においては、高齢化の進展とともに医療ニーズが多様化し、急性期と慢性期医療の区別が必要となってきたことを背景に、「特定機能病院及び療養型病床群の制度化」が行われました。また、「看護と介護を明確にし、医療の類型化」が進められるとともに、「在宅医療の推進」も図られました。
特定機能病院は、高度な医療の提供、高度な医療技術の開発及び評価、高度な医療に関する研修を実施する能力を有する病院として位置づけられました。一方、療養型病床群は、主として長期にわたり療養を必要とする患者を入院させるための病床として整備されました。
第3次改正(公布1997年、施行1998年
・地域医療支援病院制度の創設 
・診療所における療養型病床群の設置 
・在宅における介護サービスのあり方の検討 
・医療機関相互の機能分担の推進 
・インフォームドコンセントの法制化
第3次改正では「地域医療支援病院制度の創設」が進められました。「診療所における療養型病床群の設置」も可能となり、「在宅における介護サービスのあり方の検討」なども問われるようになりました。 
 
また、「医療機関相互の機能分担の推進」が図られました。地域医療支援病院は、かかりつけ医を支援して地域医療の中核を担う病院として、紹介患者の受け入れや医療機器の共同利用などの役割を担うようになりました。
この頃から患者さん自身が医療内容を理解し、納得した上で治療を受けたいという要望が高まったことから、「インフォームドコンセントの法制化」が進められました。
第4次改正(公布2000年、施行2001年)
・一般病床と療養病床の区分化 
・医療計画制度の見直し 
・適正な入院医療の確保 
・広告規制の緩和
第4次改正では「一般病床と療養病床の区分化」が行われ、届出が義務づけられました。また、1床あたり面積の施設要件が変更され、一般病床では6.4平方メートル以上という基準が設けられました。
第5次改正(公布2006年、施行2007年)
・患者への医療に関する情報提供の推進 
・医療計画制度見直し等を通じた医療機能の分化・地域医療の連携体制の構築 
・地域や診療科による医師不足問題への対応 
・医療安全の確保 
・医療法人制度改革(社会医療法人の創設、持分なし医療法人への転換) 
・有床診療所に対する規制の見直し
第5次改正では、医療計画には4疾病5事業(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病の4疾病と救急、災害、へき地・周産期、小児の5事業)が盛り込まれました。
法人制度改革では社会医療法人が創設され、新規法人設立は持分なし医療法人に限定されることで医療の非営利性が明確化されました。
第6次改正(公布2014年、施行2015年)
・病床機能報告制度と地域医療構想の策定 
・在宅医療の推進 
・特定機能病院の承認の更新制の導入 
・医師・看護職員確保対策の推進 
・医療機関における勤務環境の改善 
・医療事故調査制度創設 
・臨床研究の推進
第6次改正では「病床機能報告制度・地域医療構想の策定」「在宅医療の推進」などが行われました。地域包括ケアシステムの構築も本格化し、病床機能ごとに現状把握と将来設計が推進されるようになりました。
第7次改正(公布2015年、施行2015年)
・地域連携推進法人制度の創設 
・医療法人制度の見直し
第7次改正では、「地域連携推進法人制度の創設」と「医療法人制度の見直」しが主眼でした。複数の医療・福祉法人が連携することで、良質で効率的な医療体制整備を地域ぐるみで進める仕組みです。
第8次改正(公布2017年、施行2018年)
・特定機能病院の管理運営体制の強化 
・医療機関ホームページの広告規制
第8次改正では、「特定機能病院の管理運営体制の強化」や「医療機関ホームページの広告規制」が行われました。医療安全管理責任者の配置や、ホームページの虚偽広告、誇大広告の禁止などが大きなポイントです。
第9次改正(公布2021年、施行2024年)
・医師の働き方改革 
・各医療関係職種の専門性の活用 
・新興感染症等の感染拡大時における医療提供体制の確保 
・地域医療構想の実現に向けた医療機関の取組支援 
・外来機能報告制度の創設 
第9次改正では、「医師の働き方改革」が最大のトピックでした。医師の時間外労働の上限規制が段階的に施行されました。皆さんの病院でも夜勤当直体制の見直しなどの対応に追われているのではないでしょうか。
また、「各医療関係職種の専門性の活用」も重視されています。診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士の業務範囲が拡大され、タスク・シフト/シェアを通じて医師の負担を軽減し、持続可能な医療提供体制を維持する取り組みが進められています。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を教訓として、「新興感染症等の感染拡大時における医療提供体制の確保」も法制化されました。医療計画の記載事項に新興感染症などへの対応が追加され、第8次医療計画から反映されています。
さらに、「地域医療構想の実現に向けた医療機関の取組支援」として、病床機能再編支援事業が地域医療介護総合確保基金に位置づけられ、再編を行う医療機関への税制優遇措置も講じられました。 
加えて、「外来機能報告制度の創設」により、医療機関が医療資源を重点的に活用する外来などについて報告することとなりました。 
まとめ
医療法は、日本の医療提供体制の根幹となる法律です。1948年の制定以来、社会環境の変化に応じて主要な制度改正が何度も行われてきました。
制度改正を時系列で見ていくと、国が目指してきた医療体制の方向性が明らかになります。総量規制導入から始まり、病床機能の分化、地域連携の推進、地域包括ケア構築、医師の働き方改革、そして2040年を見据えた医療・介護・DX最適化へと変化を続けています。
コラム「2026年に予定されている医療法の改正内容について」では、2026年に公布が見込まれる医療法の改正案について、2025年10月現在判明している内容を説明します。 
「病院経営~虎の巻~」、次回もお楽しみに!