虎の巻その21
地域包括ケア病床を活用した病床再編実践(下)

2021824

はじめに

こんにちは。虎兄(とらにぃ)です。病院経営コラム「病院経営~虎の巻~」。
前回、地域包括ケア病床への機能の再編についてのメリットをお伝えしました。
今回は病床導入事例をご紹介します。


地域包括ケア導入シミュレーション事例

まずは、今回とり上げるA病院の概要です。
標榜目は、内科・外科・整形外科・脳神経外科・麻酔科・循環器科・呼吸器科・リハビリテーション科。病床構成は(図1)の通りです。

①収入構造の把握

当初のA病院から相談依頼は、「建物老朽化により新棟建替えを検討したい」というものでした。
新棟建替えには中長期的な事業計画を策定する必要があるため、収入構造の内部分析のから取り掛かりました。

新規入院患者数は月間80名前後で推移し、平均在院日数は22日と地域一般病棟入院基本料の中では短い方です。
新規入院患者数が多い要因は、救急受入件数でした。医療圏内の診療機能棲み分けが明確にされていて、緊急性の高い救急搬送は地域の中核病院に、中等度から軽症の救急搬送はA病棟と、月間50件近い救急搬送からの入院を受入れています。
病床稼働率においては、療養病棟はほぼ満床稼働で、地域一般病棟も救急用ベッド確保を除けば年間通して満床に近い高稼働を維持している状況でした。

将来の建替え資金を確保する為の増収計画でしたが、単純に集患などの課題では無いと判断した為、内部環境の分析を実施しました。

②内部環境を分析

病床再編の検証材料になる分析は、入院経過日数×日当円の分析です。
以前はレセプト電算ファイル(データの拡張子より「UKEファイル」と呼ばれることも)から、分析を実施していましたが、最近ではデータ提出加算の届出医療機関が増えてきたため、EFファイル(※1)より、(図2)のような分析を実施する事が多くなりました。

1
E
ファイル=診療明細情報 Fファイル=行為明細情報

分析結果によると、入院初日には加算が多く約80,000円の日当円になったが、日数経過とともに日当円が減少、7日以降には地域包括ケアの日当円を下回り、更に日数が経過すると療養病棟日当円相当の20,000円前後まで日当円は減少する事が読み取れました。
さらに分析元データの入院日数と入院経過日数の分布割合を割り出すと、入院7日までの延入院日数の構成比率は43.3%。
この構成比率を定床60床に当てはめると約34床が地域包括ケアに病床転換した方が増床になるという分析結果になりました。

ただし、分析結果だけで病床転換を実行するのは現場運用を考慮していないため、ここまでの分析を「地域包括ケア導入に経営面でのメリットがある」という事で組織内に共有し、導入へ向けてのきっかけとして有効利用することにしました。

本来であれば、新規入院患者数の分析も重要です。
A
病院は病床稼働率が高く、過去実績の新規入院患者数も安定して目標値を達成していたので今回の課題には上がらなかったのですが、昨今の医療情勢より病床稼働率が高い医療機関はあまり多くないでしょう。

必要新規入院患者数の計算式 病床数 × 30.4(日) ÷ 平均在院日数

今回は地域包括ケアのシミュレーションのため、平均在院日数は30日と設定しました。
すでに地域包括ケアを導入済の医療機関は実数に合わせるのが良いでしょう。
仮に20床で運用中の地域包括ケアを増床して40床にする計画を立てる場合、20床だと20.2名、40床だと40,4名と倍の新規入院患者数が必要になる計算です。

「新規入院患者数を倍にする」と言うと達成不可能な数値に見えてしまいますが、地域包括ケア病床の役割である「ポストアキュート」、「サブアキュート」(※2)の側面から読み解いていくと、どの入院ルートが強化すべきか、が見えてきます。

2
ポストアキュート:急性期後に引き続き入院を要する状態
サブアキュート:在宅や介護施設等で症状が急性増悪した状態


まとめ

今回は少し専門的だったでしょうか。
解説した分析はあくまでも地域包括導入までの分析の一部です。
当社の病院経営コンサルティングは、病院と何度も協議を重ね、経営方針として勧めたい方向性と現場のやりたいこと(どのようなケアをしたいのか)という事を可視化し、中長期的な経営ビジョンを描いています。

病院経営~虎の巻~」、次回もお楽しみに!

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