虎の巻その22 病院建物~計画的な「建物保全計画」立ててますか?
はじめに
こんにちは。虎兄(とらにぃ)です。病院経営コラム「病院経営~虎の巻~」。
今回からは「病院建物」についてです。
ユカリアには病院建物についてサポートする専門チームがいます。
建物保全(修繕、設備更新など)や建替(移転新築・同じ場所での建替新築)、病棟改修等を単なる工事として捉えるのではなく、複合的な経営課題として考え、その工事が病院経営・運営に寄与する意味を深く考察し最善の形で実行支援しています。
今シリーズでは「建物保全」と「新棟建替計画」に分けて説明していきます。今回は「建物保全」についてです。
「修繕計画」って何!?
築10年未満の病院は、あまり建物に修繕費用をかけず年月を過ごすことが出来る例が多いです。しかし、その後の10年、20年は様々なところで修繕が必要になってきます。
代表的な例では雨漏りや漏水、空調機故障や給湯器(給湯ボイラー含む)故障等が多発してきます。築年数20~30年の建物の病院関係者には思い当たる事例だと思います。
そこで、思い出していただきたいのが、虎の巻その2です。1990年代前半の病院新設ラッシュ時から30年が経過し、多くの病院が老朽化しています。
建物や設備機器には各々耐用年数があり、使い方やメンテナンス頻度により状態も様々ですが、それぞれ修繕・更新が必要になります。
空調機を例にとると、製造メーカー耐用年数は1日8時間稼働基準で15年前後が一般的です。でも入院ベッドを有する病院では、基本的に24時間365日稼働させているので、運転時間は3倍となり、おのずと耐用年数が短く約5年~7年となってしまいます。ここ数年の異常気象による最高気温更新や高湿度も耐用年数減少の要因の一つとなっています。
このように建物や設備機器の一定周期による修繕更新や部分補修等を計画的に表に取り纏めたものを「修繕計画」といいます。
これまでユカリアが関わった病院の半数以上で「修繕計画」が未策定でした。その理由として多いのが、病院内に建築等専門職員の不在です。総務課等の職員が兼任して修理依頼等の担当窓口業務に終始しているのが現状です。
「修繕計画」は病院経営を左右する重要課題です。しかし病院ではあまりそのような認識をされていません。
例えば、空調機更新費用等は額が大きく、費目が資本的支出となり経営数字に大きく影響します。実際は患者様のいる中でベットコントロールを検討しての工事になるため、病床稼働率に大きく影響してきます。
同様に、屋上防水更新など様々な工事を集計していくと費用の「見える化」となり、計画的な資金準備が可能となります。
このように、計画的に修繕や補修を行うことで「予防保全」となり、突発的な故障修理を最小限に留めることで、病院経営・運営への影響を最小限に抑え込むことを可能にする大事な指標となるのが「修繕計画」です。
修繕計画の作成の流れ
「修繕計画」は一般的には建築、設備に精通した専門家による作成となります(図1)。流れとしては【調査】➭【考察】の順で、【調査】は、[現状現場把握]と[書類確認]の2つです。
①現状現場把握
[現状現場把握]では、建物に詳しい職員に帯同をお願いし、建物の外部、内部をくまなく確認していきます。
- 外部(屋上/外壁/外構/外部に設置される電気設備/機械設備など)
- 外部(屋上/外壁/外構/外部に設置される電気設備/機械設備など)
書類確認
[書類確認]では下記代表的なものをはじめ多岐にわたる書類を確認します。
- 建築確認関係書類等(確認済証、検査済証)
- 竣工図(建築、電気・設備また別途工事)
- 消防用設備等検査済証ほか
- 竣工図(建築、電気・設備また別途工事)
- 工事請負契約書及び明細見積書ほか、自家用電気工作物定期報告書
- 特殊建築物等定期調査報告書、建築設備定期検査報告書など
- 修繕工事履歴一覧表ほか
書類をきちんと整理保管されている病院は大変少ないのが実情で、書類の存在もわからない場合もあります。
建物保全に重要な書類ですので、一度保存状況を確認することをお勧め致します。
③考察
【調査】が完了したら【考察】です。
建築・電気設備、機械設備、消防設備等の分野ごとに不具合事項確認、各部位、各電気・機械設備機器の更新や部分修繕等の周期を早期、中長期に大別して、更新の重要性や時期を鑑みながら「修繕計画表」をまとめていきます。
その後、実施項目、時期・期間そして資金手当等、経営状況を見据えながら具体的に工事の詳細を詰めていくことになります。
まとめ
- 日本の病院の多くが築30年を迎えるなか「修繕計画」は病院経営を左右する重要課題である
- 「修繕計画」を策定することで実施時期、費用を「見える化」ができ、病院経営・運営への影響を最小限に抑えことができる
- 「修繕計画」は【調査】➭【考察】の順で、進める
「修繕計画表」が単なる工事集計表ではなく病院経営を大きく左右する重要なものとご理解いただけましたでしょうか。まだ立案されていない病院は早目に「修繕計画」の着手をおすすめします。
次回からは新棟建替計画について紹介していきます。「病院経営~虎の巻~」、次回もお楽しみに!