虎の巻その30 失敗から学ぶ病院経営~ケース③潜在的な来院ピークと診療時間がズレている
はじめに
こんにちは。虎兄(とらにぃ)です。病院経営コラム「病院経営~虎の巻~」。
「失敗から学ぶ病院経営」と題した事例紹介の3回目です。
COVID-19の感染拡大により、軒並み外来診療減少し、経営サポートをしている病院でも、外来診療の増患施策について相談を頂く事が多いためご紹介したいと思います。今回は病院の診療時間帯に着目した例を紹介します。
潜在的な来院ピークと診療時間がズレている
診療時間帯に関しては地域によって特性やニーズはまちまちです。病院のオープン前から多くの患者が整理券番号待ちをする病院もあれば、9時以降に緩やかに来院患者が増えて昼ぐらいにピークを迎える病院、夕方に来院ピークがある地域もあります。
最近関与した九州地方にある一般的な総合病院は、午前診療がメインで午後は診療枠が設けられていない状況でした。
単純に患者数を増やすのであれば、診療時間の見直しを検討しますが「地域的に午前中の診察のみ」、「職員のシフトに影響が出る」、「入院患者を診察する時間が無い」などの理由を羅列され変化を拒まれてしまいました。
一方で簡易シミュレーションの結果を基に「夕方の時間帯を2時間延長しましょう」と提案したところ、診療時間の拡大を決断し大幅に患者数が増えた病院もあります。
外来枠の変更は人口動態よりシミュレーションもできますが、それだけでは見えない潜在的な来院ピークがあります。
労働世代や学生層にとっては、労働時間帯以外で診療をうけられることは非常にありがたい存在だと思います。
緊急性の高くない皮膚科、耳鼻咽喉科、整形外科など恒常的な通院治療が必要な診療科や、慢性的な通院が特にニーズがあります。
近年では禁煙外来やメタボリック症候群予防など注目を浴びていますが、このような領域も労働世代がターゲットの外来診療といえます。
事例~C病院の場合
都心の外れで中規模病院を経営するC病院の事例です。
C病院の歴史は古く、周囲には江戸時代から続く商工業者や木材商など、旧家が多数集まっていました。地域に一つの総合病院であったため、長い間さまざまな年齢層の住民の診療を一手に引き受けてきました。
しかしバブルを期に地域の人口構造は様変わりします。地上げを受け先祖代々の土地を手放し、移り住む住人が増えたのです。その代わりにアクセスが良いという事で、商業用ビルや高層マンションが建設され若い世代が多く流入していきました。街は近未来的な商業空間に変貌を遂げていったのです。
この変化とともにC病院の患者は激減します。ほとんどが通勤者のため夜間人口は多いのですが、受療率も低く見込み患者にはならなかったのです。急激に赤字額が増加し、C病院理事長は「継続が売却か」の選択を迫られます。子息が大学病院の勤務医だったので、できれば将来的には呼び戻して跡を継がせたかったのですが、背に腹は代えられません。
取引先の銀行からは資産売却を勧められますが、事業継承の夢も断ち切れずユカリアへ相談に訪れました。
内部環境調査及び外部環境調査により、生き残る為に2つの施策を提案しました。
第1に需要に合った病床ダウンサイジングとローコスト経営、第2に提案したのが地域の労働者ニーズにあわせた夕方診療の開始でした。夕方診療開始には子息にも賛同頂き、大学病院との医局との繋がりにより実現する事ができました。大学病院で勤務を終えた医師が診療科の幅も広く揃える事ができました。
結果的にC病院の夕方診療は評判を呼び、予想していた以上の患者を取り込む事ができ生活習慣病予防・治療の専門病院として生まれ変わる事ができました。
まとめ
- 環境の変化に恐れず、潜在的なニーズに目を向ける
- 潜在的なニーズに診療時間を合わせる努力をする
前回でもお伝えしたように、周辺社会が構造的に変化を生じているなか、この変化を捉えずに従来の病院経営を踏襲するだけでは存在価値は失われていきます。
特に抜本的な医療制度改革が進んでいく今後、工夫無く惰性で経営を続けていくのは、たとえ病院であっても厳しい時代なのです。
その為、外来のニーズが見込めるならば、潜在的な来院ピークに合わせて診療時間を操作するような柔軟な経営姿勢が必要となります。
「病院経営~虎の巻~」、次回もお楽しみに!