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虎の巻その39 岐路に立つ精神科病院の経営。近年の政策や診療報酬の傾向から今後の経営戦略を考える(下)

20251029

はじめに

こんにちは。虎兄(とらにぃ)です。病院経営コラム「病院経営~虎の巻~」。
近年、取り巻く環境が大きく変化している精神科病院。今後求められる経営のあり方について、2回にわたって解説します。

前回のコラムでは、精神科病院を取り巻く現状や2024年の診療報酬改定の要点を整理しました。今回はその内容を踏まえ、目前に迫った2026年の改定の方向性を見据えながら、今後求められる精神科病院の経営の方向性を説明します。

精神科病院が今後求められる方向性

今後、精神科病院が求められる経営の方向性を次の3つに整理しました。

方向性①:地域包括ケアの推進や病棟編成の見直し

精神科病院に対する地域移行の要請は、今後ますます強まると予想されます。精神科領域の地域包括ケアの推進のために、診療報酬の算定要件や施設基準を確認しながら、地域と協力して早期退院の体制を強化することが必要です。退院が難しいと予想される患者に対する早期のアプローチなど、病棟構成の見直しを検討しましょう。

2024
年に新設された「精神科地域包括ケア病棟入院料」は、現時点では要件が厳しく、届出数も限られていますが、今後要件の見直しが予想されます。
一般病棟の「地域包括ケア病棟入院料」は、2014年の導入後の運用実績を踏まえ、2016年の改定で施設基準や届出要件が見直され、入院機能の明確化や在宅復帰支援機能の評価強化といった、アウトカムを意識した仕組みへと改善されました。次回の改定時には同様の動きがあるかもしれません。発表内容を確認し、導入の是非やシミュレーションを積極的に検討しましょう。

なお、病棟編成の検討にあたっては、病床数の維持が難しいと考えられる場合にダウンサイジングを選択肢に含めることも必要です。

【事例紹介】ユカリアが支援する精神科病院の病棟再編

ユカリアは全国の提携医療法人が持続的に成長できるようサポートしています。院内の課題を定量的、定性的に把握し、改善策の立案から実行までを支援しています。
その一例として、札幌市のあしりべつ病院(306床/202510月現在)では、患者層の特性を踏まえた病棟再編を実施。急性期と精神一般、精神療養からなる6病棟で合計306床(202510月現在)を有していますが、一部の病棟を「特殊疾患病棟」に転換することで、稼働率を維持しつつ、入院単価の向上を実現しました。

詳しくは、病院経営コラム「収支の改善を目指す精神科病院。自院の特色や地域ニーズを踏まえた病棟再編を実施」をご覧ください。

方向性②:身体合併症への対応強化

精神科病院の入院患者の高齢化が進む中、身体合併症への対応体制の充実は、医療の質の向上と経営安定化を図るうえで、重要な戦略となります。

「精神科救急・合併症入院料」は、大規模病院を中心に、施設基準や患者要件に合致する病院にとっては収益向上の機会となります。一方で、算定が難しい大多数の精神科病院では、身体合併症を持つ患者への対応に際し、次のような加算項目を検討することが考えられます。

「精神科身体合併症管理加算」は、精神病床に入院する患者の身体合併症に対し、精神科医と内科や外科医が計画的に協働して治療を行う体制を評価する仕組みです。治療開始日から最大15日間の算定上限が設定され、施設基準や対象疾患の要件を満たしたうえでの活用がポイントになります。
「栄養サポートチーム加算」は多職種チームによる栄養管理を評価する入院加算で、栄養障害またはそのリスクが高い患者への介入が対象です。身体合併症を抱える精神科入院患者に対しても、基準を満たせば適用可能です。
「薬剤管理指導料」や「褥瘡ハイリスク患者ケア加算」なども、要件に適合する患者への確実な算定により、身体合併症対応に係る収益基盤を強化できます。

これらの加算を適切に活用することで、身体合併症対応に要するコストを一定程度補いながら、医療の質と安全性を維持する体制を整備できます。結果として、経営の安定化にも寄与します。算定の可否は入院料ごとの規定施設基準、最新の通知によります。導入時は医科点数表などを事前確認してください。
また、近隣の総合病院や診療所と連携し、定期往診や緊急時の転院ネットワークを整備することで地域連携を強化することは、身体合併症を持つ患者に対応において極めて重要です。身体症状に基づく転院基準をあらかじめ整備し、連携先の医療機関と共有しておきます。

方向性③:児童・思春期の精神疾患をはじめとした専門医療の強化

発達障害、不登校やいじめに伴う心身の問題、うつ・不安障害など児童精神疾患に関する医療のニーズが急増しています。こうした動きを受けて、2024年度の診療報酬改定では「児童思春期支援指導加算」が新設されています。2026年度の改定に向けても、同分野の評価の拡充が議論される可能性があります。
また、さまざまな依存症も精神医療における重要な社会課題と捉えられており、診療報酬における評価の変更が行われる可能性があります。
このような専門医療を強化するためには、専門性を持つ人材の確保、地域の学校や福祉施設との連携が欠かせません。実現のハードルは高いですが、強みとして打ち出せれば病院の差別化につながります。

まとめ

精神科病院は、長期入院患者に依存するという従来の経営からの転換が必要とされています。
長期入院患者の退院と地域移行を支援し、空床となった病棟は急性期対応や専門医療などへの用途の転換を検討することが考えられます。そのうえで、収益確保のために必要があれば、地域のニーズに応じて訪問看護などの新事業の開発検討を行いましょう。今後の入院患者数の減少が見込まれるようなら、病床のダウンサイジングも選択肢とする必要があります。

経営方針を転換することは簡単ではありません。地域の医療機関や福祉施設との信頼関係の構築やスタッフの意識改革、費用対効果の評価が必要です。自院の規模や地域の特性を理解し、段階的に進めていくことが重要です。

ユカリアが経営を支援する病院の精神科病床数は、全国で合計すると1,666床にのぼります(20254月現在)。経営支援、運営支援を通じて蓄積したノウハウを活かして、精神科病院が抱える様々な課題に対応しています。ご興味がありましたら、お問い合わせフォーム(https://eucalia.jp/inquiry/)からご連絡ください。

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