ヘルスケアの産業化で、
課題解決先進国への一歩を踏み出す<後編>

202429
EUCALIA IDENTITY

ユカリアがヘルスケアの産業化を進めていくためには、どのような視点が必要でしょうか。
医療業界の抱える課題は、日本社会が抱える課題と不可分と考えます。
学問の世界にとどまらず、知を社会課題の解決につなげようという姿勢のもと、新たな社会モデルやビジョンの提案、産業の創造など、様々な活動を展開されている小宮山先生に、代表取締役の古川淳がお話を伺いました。

【ゲストの小宮山 氏ご紹介】

1972年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了後、東京大学工学部長等を経て、20054月に第28代東京大学総長に就任。20093月に総長退任後、同年4月に三菱総合研究所理事長に就任。20108月には、サステナブルで希望ある未来社会を築くため、生活や社会の質を求める「プラチナ社会」の実現に向けたイノベーション促進に取組む「プラチナ構想ネットワーク」を設立し、会長に就任(2022年一般社団法人化)。著書に「新ビジョン2050(日経BP社)」、「『課題先進国』日本(中央公論新社)」、「日本『再創造』(東洋経済新報社)」など多数。



社会課題を乗り越えるユカリアの変革

古川:
日本が「課題解決先進国」になるべく、小宮山先生が提唱し、実際に活動されているものの一つに、「プラチナ構想ネットワーク」があります。このネットワークにユカリアも加盟していますが、この構想によりどのような社会の実現を目指しているのか、改めてお聞かせいただけるでしょうか。
 
小宮山:
プラチナ構想ネットワークとは、簡単にいうと、「地球が持続し、豊かで、すべての人の自己実現を可能にする社会」をプラチナ社会と定義して、それを実現するための活動です。ユカリアにも参加していただいており、現在では440ほどの企業・自治体などが加盟しています。
現代は、人間の活動により、気候や地球環境など、自然システムに引き起こされた変化が顕在化するなど、大きな転換期だと考えています。人類は地球を顕著に変化させるような活動を続けているうえ、当の人間の寿命は、20世紀初頭には30歳超だったものが、いまや70歳程度に伸びています。そして、学問やデジタル技術の進歩により、知識の量は爆発的に増えた一方で、もはや誰にも全体像が見えない社会になりました。そうした課題に対して、先ほど触れたような「課題解決先進国」を目指し、課題を抱える自治体と、企業や大学のノウハウ・スキルをマッチングし、政策設計をしたり、案件化して社会に実装しています。

ユカリアも、高齢化社会における健康寿命の増進などといった社会課題に対し、事業を通じて解決に取り組んでいますね。企業視点では、どのようなアプローチをしていますか。
 
古川:
超高齢社会では、医療と介護・地域を接続し、高齢者を支えぬくことができる環境を作る必要がありますが、現状、地域連携体制の構築は不十分です。
一例ですが、生活習慣病を患った方は、病気から回復したのちに再び同じ病気を繰り返すことがあります。治療を終えた後も、地域ぐるみで患者さんの経過をしっかりサポートして健常な状態でしっかりと寿命を全うすることがヘルスケアであると考えているため、まずは私たちのパートナー病院と他院・介護施設が連携し、施設や訪問診療を充実させ、地域包括ケアの仕組み作りを進めています。
 
小宮山:
医療からケアまで一体となったサービスの構築は、社会全体の健康的なエイジングの実現につながるものだと思います。そうした社会的なケアシステムの構築に加え、患者起点の思考にもとづく治療の提供といった、バリュー・ベースド・ヘルスケア(VBHC)という考え方を打ち出されていますね。これに関連して、興味深い事例があります。
北海道大学が、北海道岩見沢市で2017年から行った、低出生体重児の減少を実現させた社会実験があります。実は日本は、赤ちゃんの低出生体重の割合がOECD加盟国の中はでかなり高い状況にあります。そのような課題を背景に、この社会実験では、妊娠期から出産・子育ての過程を通じ、「母子健康調査」として、妊産婦の便・血液、臍帯血、母乳と、乳幼児の便などを試料として、母から子への影響を網羅解析し、低出生体重児を予測。それに基づいて個人向けに、最適な食のリカーリングサービスをはじめとした健康支援を実施しました。結果として、2015年に10.4%だった低出生体重児の割合を、2019年には6.3%までに減少させたということです。
実際、健康というのは個人的な事柄ですので、全体に向けて一律にアナウンスするよりも、データから得られたエビデンスをもとに、個別のアドバイスに落とし込んでいく方法は、効果的に思えます。
 
古川:
素晴らしい研究ですね。そういったうまくいった事例がある一方で悩ましいのは、多くの人が受ける保険治療は、取捨選択のフレキシビリティが少なく、VBHCからほど遠いのが現状です。

一例ですが、薬の処方は、発症したがんの種類ごとに保険が適用される薬が決まっていますが、現在は科学の進歩により、原因となっている遺伝子の型が解明できます。がんを引き起こしている遺伝子に対して、発症しているがんとは別のがんの薬が有効と分かっても、それを保険で処方することはできないのです。医療は進歩し、治療に関するアプローチも変化しているにも関わらず、患者さんが医療から取り残されています。
VBHC
を追求することで医療の質を向上させることはもとより、それに向けて尽力する病院が正当に評価されるような社会を作るために、国や自治体など様々なステークホルダーも巻き込んで、法改正などの働きかけも行っていきたいと考えています。
医療の変革を成し遂げるうえで、ベースとなるのはやはりDXだと考えています。新型コロナウイルス感染症発生の際に、病院から保健所にファックスで発症届を送るという報道を見て驚かれた方もいると思いますが、あれが医療現場の実態なのです。
 
小宮山:
あらゆる産業でDXが変革のベースになっていますが、ぜひヘルスケア分野においても成功の道筋をつけて欲しいと思っています。

現在は、ChatGPTに代表されるように、生成AIの活用が広がっています。私も、先端領域の専門用語などを調べるときにChatGPTを活用するなど、ヘビーユーザーです。日本の企業の大半は、業務での使用を禁じているようですが、私は、デジタル技術がもたらすポジティブな面にも目を向けるべきだと考えています。もちろん、ファクトチェックなど注意を払わなければいけない点はあります。しかし、医療業界をはじめ、ステークホルダーが分断されているがゆえに課題解決が進まない業界においては、相互理解を深める一助にもなりうると思うのです。
 
古川:
ヘルスケア分野でも、生成AIを実装することで、アウトカムが変わってくると考えています。とは言え、医療現場においては、まだまだ残っているアナログなオペレーションを見直していくことが第一歩という状況です。医療DXをはじめ、介護DX、ヘルスケアDXのモデルを作り、現場に即したDXを提案することで、業務効率化を実現し、医療従事者が本来の医療行為に集中できる環境整備を目指していきます。
 
小宮山:
ユカリアが持っているヘルスケアに関するネットワークを活かし、日本の医療現場に変革を起こすことが、社会価値の向上につながると思います。

このようなビジョンをもつ企業は少ないので、今後の活動を応援しています。

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