虎の巻その29 失敗から学ぶ病院経営~ケース②急性期病院にばかりこだわる
はじめに
こんにちは。虎兄(とらにぃ)です。病院経営コラム「病院経営~虎の巻~」。
「失敗から学ぶ病院経営」と題した事例紹介、今回が2回目です。
国民の4人に1人が後期高齢者になる2025年に向けて、確度の高い抜本的な医療改革が実行されています。「抜本的に」という文言を使っているのは、昔では考えられない診療報酬のマイナス改定も今や当たり前になっているからです。
病院経営者は2年に1回の診療報酬改定に戦々恐々としていることでしょう。
診療報酬改定の傾向として、急性期医療と慢性期医療とでは診療報酬評価に差がつけられています。
急性期医療は看護必要度や医療の質が評価に反映され、慢性期医療はより介護保険に移行していく流れなので、一見「急性期医療を維持しなければ減収になる」、「慢性期医療は儲からない」といったイメージを持たれるかと思います。
しかし、ここに経営の落とし穴があります。急性期医療にこだわった病院運営をした結果、経営が悪化した事例を紹介しましょう。
急性期病院にばかりこだわる
ある程度の急性期病院は、高い診療報酬を設定できる急性期一般入院基本料のより高い基準を目指していると思います。
しかし、医業収入が減収にならないよう急性期医療をキープする為には(図1)のように多くのクリアすべき項目と設備投資があります。
投資へのスピード感が大事な項目もありますが、急性期病院の維持が暗黙の了解になってしまい、当たり前のように投資を続けていれば「投資したものの回収の見込みが立たない」といった状況に陥ります。
前回ご紹介したような競合病院の参入も重なればなおさらです。
事例~B病院の場合
関東にあるB病院のケースを紹介します。
外部環境の変化に伴い2005年をピークに入院患者が減少、確かな見込みもないまま急性期病院を維持しようと投資を続け、経営危機を招いた病院の一つです。
緩やかな人口減少はじまり高齢化が進む中、近隣には急性期機能を持った病院が移転してきました。外部環境に危機感持ったB病院理事長は急性期病棟の拡充を決断しました。
クローズしていた病棟をオープンする為には投資が必要で、銀行からの融資を取り付けました。
現在では銀行にも医療専門のチームが設けられ、厳しい審査をうける事になりますが、当時は医療という専門分野に不案内だったのか、過去の取引実績や担保不動産の価値を勘案し資金融資は実行されました。
事業計画は急性期維持の為に高度医療機器を取り入れて急性期機能を強化したり、検診事業を拡大して予防医療段階から患者を取り込む事は理にかなっているように見えます。(図2)
実際にリニューアルした直後は市健診の利用者が多く流れ込み、最新のMRIは評判が良く、遠方からも患者が訪れて活気に溢れていたそうです。
ところが、1年を経過していくつか誤算を生じてきます。
検診センターは当初見込んでいた人間ドックの利用者が伸びずに目標収益を達成できませんでした。また、人員採用が追いつかないばかりに看護配置に誤算が伴い、72時間夜勤をキープできず勤務表の改ざんに手を付けてしまいました。
結果、多額の診療報酬返還が生じてしまいました。当初の目論見が外れて銀行の返済が滞り始めた頃、第三者を通じユカリアに相談がありました。
B病院の経営支援に介入してから判明した事は市場ニーズへの認識の甘さでした。この地域の急性期医療のニーズはB病院が試算したよりも小さく、病床稼働は増加したように見えていましたが、実際の診療内容は薄く、結果診療単価が減少する結果になっていました。
しかも急性期患者が、かかりつけ増へ繋がるという訳でもないため、潜在的な需要をもった患者が1巡してしまいました。
また、人間ドック件数は目標の2割程度で、原因は地域の所得層とのミスマッチでした。加えて医療機器更新に伴い、外来診療費が割高になったとの評判が広がってしまい「B病院は高い」という噂まで広がってしまいました。
ニーズに合わない診療を、今までと同じように続けるだけでは、病院の医療収入は確実に減少していきます。
まとめ
- 急性期は診療単価が高いが、患者が来なければ収益は生まれない
どの病院も【患者の数】×【診療単価】で収入が算出されるのは変わりません。この読みが甘いと計画が大きく差異を生じる事になります。
「失敗から学ぶ病院経営」は続きます。
「病院経営~虎の巻~」、次回もお楽しみに!